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子どもたちが詠むコロナの日々 第1回短歌研究ジュニア賞から

横溝麻志穂さん(左)、井上陸斗さん

会う予定消え、棚霞に込めた悲しみ

 《棚霞(たながすみ)祖父母に成長見せに行く予定あっても消していく線》(宮城県、高1、横溝麻志穂〈ましほ〉)

 昨年3月、仙台市内の中学校を卒業した横溝麻志穂さん(16)は、春休みに埼玉で暮らす祖父母を一家4人で訪ねる計画を立てていた。「大きくなったよ、と久しぶりに会えるのを楽しみにしていた」。だが、首都圏で新型コロナウイルスの感染が広がり、取りやめに。卓上カレンダーに書き込んだ予定を横線で消していく様子を、層をなして棚引く霞に重ねた。

 棚霞を実際に見たのは、東日本大震災の翌年、家族で訪れた宮城・気仙沼の海だった。まだがれきが残り、建物はまばらだった。震災当時は幼稚園の年長で、自宅が半壊し、1週間ほど避難所で過ごした。共に入学を控えた時期の震災とコロナ禍。「棚霞は悲しい気持ちと結びついている」と横溝さんは言う。埼玉の祖父母とはいまも会えないままだ。
 この歌は、短歌研究ジュニア賞高校生の部で銀賞を受賞した。横溝さんはこれまでも日々の思いを短歌や俳句や川柳に託し、朝日新聞の「みちのく歌壇・俳壇・柳壇」にも掲載されてきた。
 《父母もなく在校生の歌もなく縮小されて卒業に泣く》(2020年4月11日掲載)

 自粛期間中、外に遊びに行けず、友達にも会えないイライラした気持ちを詠んだのが次の川柳だ。
 《障子でも破りたくなる自粛かな》(同5月16日)

 高校の入学式はなく、登校が始まったのは6月に入ってからだった。
 《初めての革靴履いて靴擦れし高1生の実感がわく》(同6月27日)

おうち時間、祖母と共有できた花火

 昨年創設された短歌研究ジュニア賞への応募総数は1521人(小学生の部159人、中学生の部708人、高校生の部654人)。コロナにまつわる歌も多く寄せられたという。中学生の部の佳作にはこんな歌が入った。

 《鼻と口マスクで見えはしないけど心はなぜか見える気がする》(東京都、中2、緒方遥香)

 《観客も声援もないグランドにひびく僕らの息遣いの音》(神奈川県、中3、川崎太暉)

 《家を出て視線あつめる僕の顔口見て気づき走って帰る》(神奈川県、中3、寺田尚生)

 マスクと書かずに起承転結を伝える最後の一首は、選考座談会で「技巧賞」と評された。
 選考委員の一人、佐藤りえさんは「昨年がもし普通の年だったら、文化祭や運動会など楽しい思い出を詠んだ歌がたくさんあったと思うけれど、そうではない、家族で過ごすさりげない日常を詠んだ歌がたくさんあって、それが特徴的だった」と振り返る。

 《「花火だよ」祖母は動けず見えないが心の中で花火咲いてる》(群馬県、中2、井上陸斗)

 この歌で中学生の部の選者賞(千葉聡賞)に選ばれた井上陸斗さん(13)は、「家にいる時間が長くなり、家族との会話が増えた」と話す。昨夏、同居する祖母(72)に打ち上げ花火の色や形を伝えると、うれしそうな笑顔を見せたときのことを思い出して作った。一方で、所属する野球部の練習時間は短くなり、「秋の新人戦でベスト4の好成績を残したのに、対外試合もなくなって悔しい」との思いもある。
 賞創設のきっかけとなった『はじめて出会う短歌100』を編んだ選考委員の千葉聡さんは言う。
「子どもも子どもなりにいろんなことを考えて、つらさを引きずったり、もやもやした思いを抱えたりしている。でも、言葉に表現することで整理されることもあるし、今回、明るい未来を引き寄せるために歌を詠むという言葉の力に気づいた子もいるのではないか」
 入選歌や選考座談会の様子は「短歌研究」1月号に掲載されている。(佐々波幸子)=朝日新聞2021年2月3日掲載