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「ファイナルファンタジーXIV」から絵本が誕生 著者でゲームの世界設定担当・織田万里さんインタビュー

FFを知らない子どもも楽しめる作品に

——FF14初の公式絵本を作るきっかけは何だったのでしょう?

 FF14は、オンラインで継続的にアップデートされていく作品です。2010年にリリースした旧FF14(パッチ1.0。パッチ2.0以降は新生FF14とされ、グラフィックや物語を一新)を含めるとサービス開始から10年以上が経過しました。それだけの年月が経てば、人生にも色々あります。それこそ、ゲーム内で出会って結婚されるプレイヤーさんもいて、お子さん連れでイベントに来られたりするんですね。そうした背景もあって、今ならお子さん向けの物語を受け取ってもらえるのではないかと考えて、絵本を作ってみたいとプロデューサー兼ディレクターの吉田(直樹)に相談したところ、ちょうど弊社の書籍編集部でもFF14の絵本を作りたいという声があったらしく、制作することになりました。

 また個人的なことですが、自分には娘が2人いて、本の企画が立ち上がった時点で長女が4歳、次女が2歳になっておりまして、彼女たちを寝かしつける際、絵本の読み聞かせや、即興で作った物語を聞かせることがあったんです。絵本のようにかたちあるものを残せば、子どもに自分の仕事を知ってもらえるかな?という思いもありました。

——絵本の主役である「ナマズオ」(ナマズのような獣人種族)は、FF14に登場するキャラクターですが、メインストーリーに深く関わる存在ではないですよね。

 絵本にするにあたって、子どもに受け入れてもらうにはナマズオのような愛らしさのあるキャラクターが良いのではないかと考えました。それにナマズオは意外なことに、プレイヤーさんたちの間で微妙に人気があるんですよ。絵本の作画担当(長嶺裕幸さん)はナマズオをデザインした弊社のスタッフなのですが、彼に企画を伝えたところ興味を持ってくれたことも後押しになりました。

——絵本は、ウソウソ(カワウソに似た獣人種族)の仙人に「誰も見たことのないもの」を持ってくるように言われた3匹のナマズオが奮闘する物語なんですが、単なるファンアイテムではなく「ちゃんとした絵本」になっているのが印象的でした。

 よかったです(笑)。ご購入いただいたプレイヤーさんからも「意外とちゃんと絵本してる」というご意見が寄せられていて、素直にうれしいですね。FF14のプレイヤーさんにとっては、世界観を踏襲したナマズオたちのサイドストーリーとして受け取っていただきつつ、お子さんにとっては「ナマズが出てくる楽しい話」という、FFを知らなくても楽しめる内容を目指しました。ですので、物語そのものも「友情」といった普遍的なテーマにして、FFの専門用語を使うことは避けているんです。

『ナマズオとだれもみたことのないもの』(スクウェア・エニックス)より

——今回は絵本というかたちでナマズオのとある日常が描かれたわけですが、ゲームの「世界設定」を担当した織田さんの頭の中には、こうしたゲームで描かれていない物語がまだまだ存在するんですか。

 物語や世界設定を作るにあたり、キャラや事象を自分なりに解釈するため、色々とバックグラウンドは考えます。必ずしも、そのすべてがゲームに反映されるわけではないんですが。

 ちなみに作り手から見たオンラインゲームのメリットとして、プレイヤーさんの反応を観測しながら、内容をアップデートしていける点が挙げられます。ナマズオに関しても、元々はチョイ役の予定でしたが、意外と人気が出たので彼らが主体となるサブストーリーを追加で実装しました。ですので、今後もプレイヤーさんの反応によっては、様々なキャラクターたちのバックグラウンドが日の目を見るかもしれません。

——お気に入りのキャラが主役のクエストが登場するかもしれないのはワクワクしますね。絵本を作ってみて、ゲームシナリオとの違いはどんなところにありましたか?

 ゲームシナリオを作る場合は「ゲームとして再現可能か」を忘れてはいけません。例えば、あるシーンで10万人の群衆を描こうとすると、10万人のキャラクターのモデルデータと動きを規定するモーションデータ、さらに10万人が存在するための3D空間などなど、様々なものを作る必要があります。文章だと「10万人が集まった」とか書けばいいだけですけれど、ゲームだと派生する後続の制作コストまで計算しなければいけません。

 絵本の冒頭で「かわが からからに かわいてしまったのです」という一文があり、川の絵が添えられています。これをゲームで表現するとなると、干上がる前と後を描いてさらに水が流れる動きをつけなければならず、かなりのコストがかかります。絵本は作り手が考えたことを比較的自由に表現できる点が、ゲームシナリオとは違う楽しさでした。

入社半年で急きょ、世界設定担当に

——以前は出版業界で働いていて、スクウェア・エニックス転職後すぐに世界設定の担当になったということですが、本の編集者からゲームのシナリオライターというのは珍しいキャリアですよね。

 ゲームそのものは幼い頃から好きだったんです。当時としては珍しく我が家にパソコンがあって、NECのPC-8001で初めてビデオゲームに触れました。それ以降、ファミコンやスーパーファミコンといった家庭用ゲーム機を通じて、それこそ「FF」や「ドラゴンクエスト」「マリオブラザーズ」など、少なくとも有名どころは一通りやってきました。

 ただし、ゲーム開発を職業とすることを、学生時代から思い描いていたわけではありませんでした。我々の世代は就職氷河期だったこともあり、大学卒業後は趣味的な興味からは外れた業種の会社に就職したほどです。とはいえ、やっぱり自分が好きな本やゲームに関わりたい気持ちが出てきて、出版業界に転職しました。その頃は、自分が好きだったスーパーファミコンの「タクティクスオウガ」でディレクターを務められていた松野泰己さんに会いたい一心で関連書籍を作ってインタビューをしたり、労働時間は長かったですが楽しかったですね。

 その後、スクウェア・エニックスには「ゲームに関連したライティング業務」という曖昧な内容の募集を見て応募し、ゲーム開発の現場だと知らないままに入社しました。FF14の開発には数百人単位のスタッフが関わっていて、5〜6人で本を作っていた前職とは規模が段違い。出社して、開発チームの膨大な机が並んでいるのを見てカルチャーショックを受けました(笑)。

——戸惑いはなかったですか?

 もちろん戸惑いました。FF14の世界設定を担当するなど夢にも思わず入社したわけですからね。入社当時はまだ旧FF14がサービス中でしたが、プレイヤーさんからの評価が芳しくなく、自分が入社する直前の2010年末には立て直しを図ることが決まっていました。蓋を開けてみて、二重三重に驚きましたよ。一度、サービスを開始したゲームを作り直すなんて、前代未聞の出来事でしたから。

 新生FF14としてのプロジェクトが始動し、当初は世界設定担当者のアシスタント的な立場でしたが、入社から半年が経った頃に前任の方が退社され、引き継ぐことに。その時点で、旧FF14のサービス開始前に準備されていた膨大な設定のうち、どこまでがすでにプレイヤーさんに届いているのか、差分を割り出す必要がありました。そうしないと組み立て直したシナリオに矛盾が出てしまう恐れがあるので。ただでさえ慣れない仕事で不安な中、これにはかなり気を遣いましたね。前職でゲームの紹介本を作っていて、世界観や設定をまとめる経験はあったので、それが意外と役に立ち、どうにか乗り切ることができました。

小説がシナリオの土台に

——そんなハードな状況で開発されたわけですが、新生FF14は累計プレイヤー数が2200万人を突破する人気になっていますね。自由度やジョブの多彩さ、協力プレイの楽しさ、戦闘の戦略性など、多くの面で評価されています。またMMO(大人数が同じ空間でプレイするゲーム)だと大人数プレイがメインで、シナリオがおまけ的な扱いのものも少なくありませんが、新生FF14はメインシナリオの評価も高いです。シナリオ制作にあたって、過去の経験が役に立ったと思うことはありますか?

 趣味の読書が活きたようには思います。シナリオ制作の経験はほとんどなかったのですが、昔から好きな歴史やファンタジー、SFといったジャンルの小説が、シナリオ作りの土台になってくれました。世界観にしても、元々好きだった「ナショナルジオグラフィック」やビジュアル系の図鑑から得た知識が役に立ちました。また、この仕事に就いてからは、中世ヨーロッパや日本の妖怪に関する図鑑を買い漁って仕事に活かすようにしています。

——本やゲームで、世界設定に活きていると思う作品があれば教えてください。

 たくさんありますが、『氷と炎の歌』(ジョージ・R・R・マーティン著)からは大きな影響を受けました。アメリカのドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の原作といえばご存知の方も多いかもしれません。魔法やドラゴンが登場するファンタジー小説でありつつ、王座を巡る戦いや国家間の争いなど、政治、倫理、宗教といったテーマが丁寧に描かれています。あとはゲームだと「タクティクスオウガ」。ふたつの大国に挟まれた諸島を舞台に民族対立を描いていて、選択によって主人公の立場が逆転したり、味方だったキャラが敵として登場したりと斬新な作品でした。

——確かにFF14の、深みのある世界観に通じるものがありますね。

 私が本格的にメインシナリオの担当となったのは「蒼天のイシュガルド(パッチ3.0)」からになります。それを構想する中で、仲間との出会いや別れ、諸悪の根源に立ち向かうといった王道を意識する一方で、より深みのある物語や世界観を描く必要性を感じました。というのも、当時のメインユーザーは20代以上で、大人として経験を積んだ人たちだったんです。自分が子どものころに体験した、ファミコンやスーパーファミコンの頃のFFは、メインターゲットに小中学生を含めていたと思うのですが、それらの作品の良さを継承しつつも、より大人向きに物語の密度や雰囲気を調整する必要があると感じていました。

 たとえば、先ほど例に挙げた『氷と炎の歌』は中世のイングランドで起きた薔薇戦争(1455〜85年)、「タクティクスオウガ」はユーゴスラビア紛争(1991〜2001年)などを下敷きにしたと言われています。これらの作品が大人にも受け入れられているのは、政治、民族、宗教といった歴史的なバックグラウンドをしっかり描いているからだと思うんです。そこで「蒼天のイシュガルド」のメインシナリオを考案するにあたっては、そうした手法も採り入れることにしました。

ゲームに欠かせないコミュニケーション

——一方で、過去作のキャラや地名が出てくるなど、オマージュが多いのが印象的です。過去作をプレイしてきたユーザーは特にうれしいでしょうね。

 吉田がよく口にするのですが、「FF14はFFのテーマパーク」というコンセプトがあります。歴史があり、魅力的なキャラを多数生み出してきたシリーズだからこそ、過去作のエッセンスを楽しんでもらえる。これは素晴らしいことだと思います。また、オンラインゲームでは、ゲーム自体の面白さとともに、一緒に遊ぶ仲間を作ることができるかどうかも、とても大切です。過去作のエッセンスは単純な懐かしさもそうですが、「このキャラはこの作品に出てきたよね」といったように語り合うことで、プレイヤー間のコミュニケーションの一助となればという狙いもあります。

——今後もどんな物語が待っているのか楽しみです。11月23日には「暁月のフィナーレ(パッチ6.0)」の発売が予定されていますが、どんな内容になるかヒントだけでも聞かせてもらえませんか?

 答えづらいところですね(笑)。パッチ2.0から描いてきた「ハイデリン・ゾディアーク編」という一つの流れが完結に向かいます。私がプロジェクトに参加してから10年近くが経ち、何年も物語を楽しんでくれているプレイヤーさんもいらっしゃいます。そうした方たちにとっては、これまでのプレイ経験が、いわば大きな旅なわけです。「暁月のフィナーレ」がその集大成に相応しいと思っていただけるよう、スタッフと開発を続けています。ちなみに進捗は……常に締め切りと戦っております(笑)。

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