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高瀬隼子さん「おいしいごはんが食べられますように」インタビュー ありそうな職場の人模様、なぜかぞわぞわ

作家の高瀬隼子さん

 新鋭・高瀬隼子(じゅんこ)さんの新刊『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)は読み手の気持ちをぞわぞわさせる中編小説だ。どこにでもありそうな職場やありふれた食事の光景が描かれているだけなのに、どこか居心地が悪いのはなぜだろう。

 物語は男女2人の視点が交互につづられる。職場で要領よく立ち回る二谷と、がんばり屋で仕事もできる押尾。2人が気になってしかたないのは、二谷の1期下で押尾の1期上の芦川さんだ。

 体が弱くて頼りなくて負荷がかかる仕事はできないし、周りもそれを認めている。押尾はいらつき、二谷も同意はするのだが、芦川のはかなげなかわいさにひかれ、こっそり付き合っている。

 「あまり書いたことのない男性主人公の話にしようと思って、二谷の日常を書き始めました。職場で彼女作るんだろうなと思って出てきたのが芦川さん。2人のデートの話を書いていたら、彼女がやたら手のこんだ料理を作り始めてしまって……。作者としては、なんかやだなと思っていたんですが、次第に食べものの話になっていきました」

 二谷は食事に無頓着。むしろ食べることに労力をさくことを嫌い、仕事帰りの押尾との外食で心情を打ち明ける。そんなある日、芦川が早退のおわびにと、職場に手作りのスイーツを持ち込んだところから、不穏なムードが漂い始める。

 「誰かが何か悪いことをしているわけでも、おかしなことをしているわけでもないのに『怖っ』って思う瞬間がありますよね。ひょっとしたらそんな体験が表れているのかもしれません」

 プロットを立てずに書き始めるのは小学校のころから。テスト用紙の端っこや小さなノートに小説のようなものを書き始めた。

 「〈きょう雪降った、めっちゃ寒い〉といった日記のような出だしから、〈雪が紫だったら~〉と次第にうそを書き始める。独り遊びとして楽しかった」

 いまもノートやスマホに思いつきで書き始め、とことん広げていく。今作は原稿用紙200枚ほどだが、千枚くらいの分量から使える部分を取り出した結果、「こんな話になりました。過去作もですが、書き終えても自信がなくて、没になってもめげずにいようと思いながら編集者に送るんです」。

 2019年にすばる文学賞を受けてデビュー。芥川賞候補になった前著『水たまりで息をする』は、突然風呂に入らなくなった夫に寄り添う妻の話だった。今作は作者が誰かに寄り添ったわけではない。それゆえに読了後、きっと誰かと語りあいたくなるはずだ。

 「ねえねえ、あの登場人物って、どう思う?」(野波健祐)=朝日新聞2022年4月13日掲載