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ドリトル先生の公平さに注目 福岡伸一さんと新津ちせさんが対談

新津ちせさん、福岡伸一さん=いずれも大野洋介撮影

すべての命が大事 共感しなりきった

 名作「ドリトル先生物語」シリーズは、動物の言葉がわかる博物学者のドリトル先生と助手のトミー・スタビンズくん、動物たちが繰り広げる冒険物語。約100年前に英国出身のヒュー・ロフティングが書いた。子どものころからシリーズの大ファンだった福岡さんは、登場人物や世界観はそのままに、ガラパゴス諸島の自然を保護するために冒険に出るオリジナルの物語を紡いだ。

 福岡さんはかねて、ドリトル先生の「公平さ」に注目していた。動物たちへの態度はもちろん、助手のスタビンズくんに対しても大人に接するように丁寧で、対等だ。「スタビンズくんは、ドリトル先生に出会って初めて、自分を子ども扱いせず、怒ったり命令したりしない大人を知り、とてもうれしくなる」と福岡さん。

 小学6年生の新津さんは、冒険に出たスタビンズくんに近い年代だ。2歳で劇団に入り、8歳で音楽ユニット「Foorin(フーリン)」に最年少メンバーとして参加。来月には主演映画「凪(なぎ)の島」が公開される。

 「大人と自分の関係について、感じることはありますか」という福岡さんの問いに、「大人と対等に扱われることも増えてきた」と新津さん。「ドリトル先生のような監督もいて、年齢や立場をこえてみんなで意見を出しあうことも。すごく勉強になります」

 物語では、ドリトル先生の導きのもと、スタビンズくんは動物の言葉から歴史、自然科学まで幅広く学ぶ。ある出来事を知ったことから、先生や動物たちとともに気球をつくり、ガラパゴス諸島を目指す。

 新津さんは「困難がいっぱいあるけれど、スタビンズくんがドリトル先生と一緒に立ち向かっていくのが読んでいて面白かった。スタビンズくんがだんだん成長しているなと思いました」。福岡さんは「スタビンズくんは一生懸命学んで新しい世界に行きたいと願う。この物語は冒険物語であると同時に、スタビンズくんが成長していく物語でもあるんです。そこを読み取って下さったのはうれしい」と喜んだ。

福岡さんと描かれた先生が重なった

新津ちせさんが『新ドリトル先生物語』をイメージして手作りしたキーホルダー

 読書が好きという新津さんは、本家のドリトル先生物語も読んでいた。読み比べると、『新ドリトル先生物語』で描かれるドリトル先生と福岡さんが重なったという。「福岡先生の書くドリトル先生が似ているなと思った。どんな生き物にも完璧な状態はなくて、すべて流れて巡っている、と話していました」

 福岡さんは「動的平衡ですね。そういう自然の見方はドリトル先生の公平さに通じると思う。すべての生物を大事にしないと結局、人間の命も危うくなる、という世界観をドリトル先生は持っていると感じるし、私はそれに共感して、ドリトル先生になりきって書いたつもりです」と話した。(興野優平)=朝日新聞2022年7月30日掲載