ヒャダインさん「〈推す〉とは自分を消すこと。推しの風に、壁に、楯になりたい」(第7回)

【今回のテーマ】推しを見た時の自分の気持ち
日常言語化バラエティー番組「わたしの日々が、言葉になるまで」。今回のテーマは「推し」ということで、出演者のみなさんの推しトークからスタート。MCの劇団ひとりさんはアン・ハサウェイ、WEST.の桐山照史さんはベトナム発のスカジャン「ベトジャン」、俳優の葵わかなさんはスヌーピー、小説家の町田そのこさんは俳優の神木隆之介さん、そしてヒャダインさんはなんとWEST.の小瀧望さんだそうで……。
「そうなんです。桐山くんには『俺じゃないんかーい!』ってツッコまれました(笑)。WEST.が参加するKAMIGATA BOYSというユニットに楽曲提供することになり、彼らのYouTubeチャンネルを見ていたら、のんちゃんが『小瀧望ののんべぇさんぽ』っていう居酒屋を巡る企画をやっていて。天真爛漫においしそうに食べて飲んで、店員さんとすごくフランクにお話していて人柄の良さが滲み出ているんです。そこに本人がナレーションをかぶせているんですけど、そのセルフ・ボケツッコミも秀逸で。わあ、なんだこの人!って調べていくと、ステージの演出もできるし、お芝居もできるし、スタイルもよくておしゃれで……気がついたらインスタをフォローしていました」
では、小瀧さんの魅力を言語化するとしたら。
「『ジュエル』です。こんなジュエルがいたのか!って推しがいる幸せを噛みしめる日々です」
ももいろクローバーZをはじめとして、数々のアイドルに曲を書いてきたヒャダインさん。仕事柄、なるべく特定の人を推さないように気をつけているというお話もありましたが……。
「僕はハロプロも好きだし、ももクロのあーりんも大好きで、ありがたいことにどちらにも曲を書かせていただいているので推しに会えちゃうんです。でも、仕事で会う時は違うペルソナにするようにしています。周りにも言うんですよ。『僕の言動、気を付けてくださいね』って。推す気持ちをなんとか堪えて仕事しています」
どうやって堪えるんですか。
「たとえば、レコーディングで推しがすんごく可愛いフレーズを歌っていたとしますよね。そのときはマイクをオフにした状態で、『うひょおお、かわいいいいいっ!!』って一回感情を爆発させてから、マイクをオンにしてスンッって顔で『あ、めっちゃよかったです』って言うようにしています」
番組の中で徹頭徹尾「推すとは自分を消すこと」「推しの風に、壁に、楯になりたい」とおっしゃっていたのも印象的でした。ヒャダインさんが考える推しの作法とは。
「これはもう流派があるので、それぞれのやり方が尊重されるべきだとは思いますが、自分の場合はもう、推しがのびのびと生活して、お友だちと楽しく睦み合っているのを、ただただ受容側として見ていたいんです。そこに自分が関わる必要はないと思っています。もちろん、楽曲でサポートできるなら喜んでやりますけど。そう、基本、サポートに回りたいんですよね。そこで認知されたいと思うのは、たぶん『推す』というより恋愛感情に近いんじゃないかな」
なるほど。ではヒャダインさんは、もし推しに恋人ができたらおめでとう!って心からお祝いできるんですね。
「それは微妙なところです(笑)。もちろん推しの幸せは自分の幸せなんですが、一方で傷つく自分もいていいと思っています。自分は推しの『風になりたい』とか『壁になりたい』とか思っているくせに、やっぱりどこかで、100万分の1くらい、自分のものになればいいなって気持ちがあるんです。『好き』という気持ちにそれはどうしても含まれてしまう。だから推しの恋愛を心から祝えない自分は、なんて呪わしくてさもしい人間なんだろう、とは思わなくていいんじゃないかな。もちろん、その呪わしい気持ちを推し本人にぶつけてはいけませんが。あくまで推しの幸せが第一ですからね」
番組では言語化のヒントとして、ヒャダインさんが作ったCANDY TUNEの「推し♡好き♡しんどい」という曲の歌詞も引用されました。
「これは推す感情が爆発して起こす衝動的行動〈キュートアグレッション〉を歌った歌です。僕もこの時初めてこの言葉と出会ったのですが、そう言えば飼っている猫が可愛すぎて、猫吸いしたり、ぎゅーって抱きしめたりよくするんです。やっぱり好きって溢れちゃうんだなって思います。今回、推しに対する感情を表す言葉を探したわけですが、やっぱり『最高!』とか『ヤバい!』とか衝動的な表現がぴったりくるんですよね」
ヒャダインさんは推しを作り出すお仕事でもあると思うのですが、新人アイドルをプロデュースするときに気を配っていることはありますか。
「自分は音楽クリエイターなので、プロデュースといってもあくまで楽曲や歌の面に限られますが、その子がコンプレックスに思っている低い声だったりクセのある声質だったりを、『いいぞ、もっと行け!』って後押しするようにしています。僕は売れない時代に家庭教師のバイトでたくさんの子どもたちを見ていたんですが、その時に子どもの〈いいとこ探し〉をすれば力が伸びていくのを目の当たりにしたんです。だから、自然とアイドルのレコーディングでも〈いいとこ探し〉するようになりました」
あらためてこの番組の面白さはなんですか。
「自分は言葉を多面的に見るのが好きなんです。番組でもお話したんですが、先日も雨が降っていて『穿(うが)つ』という言葉がぱっと思い浮かんだんです。小さな雨粒でも同じところを打ち続ければやがて岩に穴を開ける。『穿つ』ってすごいなってスマホにメモをしました。この番組は、自分の見方だけじゃなく、他の人の見方まで触れられるのがすごいところ。今回の『推し』という言葉ひとつにとっても、いろんな新しい見方を教えてもらって、語彙や語釈が膨らんでいくのを感じました。次回のテーマは『仲直り』と『裏切り』だそうで、また皆さんからどんな言葉が飛び出すのか楽しみです」
【番組情報】
「わたしの日々が、言葉になるまで」(Eテレ、毎週土曜20:45~21:14/再放送 Eテレ 毎週木曜14:35~15:04/配信 NHKプラス https://www.nhk.jp/p/ts/MK4VKM4JJY/plus/)。次回の放送は6月14日(土)20:45~。テーマは「仲直りするための言葉」、「裏切られた時の気持ちを言葉にすると?」です。