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ウィリアム・フォークナー没後60年、訳者が魅力語る「エンタメ性の一方で実験的要素。とてもまねできない」

フォークナーの作品の魅力を語り合う柴田元幸さん(右端)ら=東京都渋谷区

 ヘミングウェーと並び20世紀アメリカ文学を代表する作家ウィリアム・フォークナーは、なぜ多くの作品に米南部の架空の地「ヨクナパトーファ」を登場させたのか。伝説の地はどう描かれたのか。一連の作品を収めたアンソロジー『ポータブル・フォークナー』(マルカム・カウリー編、河出書房新社)が出版され、訳者4人が東京・渋谷のBunkamuraで魅力を語り合った。

 今年はフォークナーの没後60年。『ポータブル・フォークナー』の原著は1946年に初版が出た。この本をきっかけにフォークナー文学への評価が高まり、49年度のノーベル文学賞を受賞した。翻訳は67年の改訂増補版をもとに、描かれた場面の時代順に短編や長編の一部など計20編を収める。「ミシシッピ州ヨクナパトーファ郡」で1800年代から1960年代まで150年余の間に起きた様々な出来事が描かれ、米南部に根づいた人々の気質や風土を伝えている。

 作家の小野正嗣さんは、フォークナーの文体を「一人の作家が多様な描き方をしている。車の運転でいうとうまいのか下手なのか。疾走感を感じるときとガタガタ揺られるときの両方がある」。作家の池澤夏樹さんは「訳していると(物語から脱線した)枝葉が繁茂していて木の全体が分かりにくいが、その枝葉が面白いというひっくり返った構造」と魅力を語った。

 フォークナー研究者の桐山大介さんは「読みやすい作品も多い。難解な地の文の深刻な場面でも、多くの人物が勝手にしゃべってかみ合わない会話からユーモアや孤独などの繊細な心理描写が読み取れる」。翻訳家の柴田元幸さんは、一連の作品が発表された20世紀前半の時代を念頭に「エンターテインメント性の一方で実験的要素もある。とてもフォークナーのまねはできないが、ラテンアメリカ文学などに大きな影響を与えた」と指摘した。

 最後に自ら翻訳した作品の一節をそれぞれ朗読し、豊かな作品世界の一端を伝えた。(大内悟史)=朝日新聞2022年11月9日掲載