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「子供はあなたの所有物じゃない」書評 そう、頭ではわかっているのに

評者: 阿古智子 / 朝⽇新聞掲載:2022年12月10日
子供はあなたの所有物じゃない 著者: 出版社:光文社 ジャンル:アジアの小説・文学

ISBN: 9784334914936
発売⽇: 2022/10/19
サイズ: 19cm/337p

「子供はあなたの所有物じゃない」 [著]呉暁楽

 子供は親の所有物ではない。頭ではわかっていても、親は子供を自分の分身のように感じて口を出す。徐々に声が大きくなり、そのうち手が出てしまうことさえある。
 家庭教師という立場で受験生の家庭を見てきた著者は、親に子供の苦痛と絶望を知ってもらうためにこの小説を書いた。台湾で約7万部を売り上げたベストセラーだが、出版当初は読者から「親の苦労を知らないのか」と多くの批判が届いたという。
 我が家では小学6年の息子が中学受験に臨もうとしており、夫と、子供とどう向き合うべきか悩む私は、登場人物の境遇を自らの身に置き換えながら読んだ。
 勉強でミスをすると子供を叩(たた)き、スマホを盗み見て子供のプライバシーを侵害する親たち。ママが悲しまないように自分はADHD(注意欠陥・多動性障害)だと言い聞かせる子。中学や職業高校しか出ていない親は、自分と同じ道は歩ませまいと、無理を重ねて子供を私立の学校に通わせる。
 母親の「心の中にはクルミがある」。つまり、「中身を傷つけずに取り出すのは、とても難しい」。そう慮(おもんぱか)って、自分を抑えつけてばかりいる娘。
 女だからと高校受験の再挑戦を認められなかったトラウマを抱える母は、それにもかかわらず、娘のアメリカ留学のチャンスを潰してお見合い結婚を迫り、男児を産むことを求める。
 「夫婦は『道義』や『責任』を共有する」のはわかるが、それで「社会が安定して秩序を保って回る」、子供は家庭(=企業)経営の「資産」、と親が悪気もなく話すのが恐ろしい。
 しかし、そう言いながら、私も自分に問いかけている。子供を一人の独立した人間として認めようとしているのかと。
 最後に著者は「悩みを聞くという行為は……最も効率的な教育行為」と述べる。私も子供の声を聞く力をつけなければ。親として自分らしくあるためにも。
    ◇
ご・ぎょうらく 1989年、台湾生まれ。デビュー作である本作はドラマ化され、ネットフリックスでも配信。