「TRY48」書評 寺山修司呼び戻し熱き同時代劇
ISBN: 9784103046332
発売⽇: 2023/02/01
サイズ: 20cm/333p
「TRY48」 [著]中森明夫
寺山修司は1983年に47歳で亡くなった。その寺山が今も生きていて、現代のアイドルグループTRY48をプロデュースする、という設定で繰り広げられるドタバタ小説。60年代・70年代のアングラカルチャーの主役を、次のおたく世代・サブカル世代の寵児(ちょうじ)が小説の形式で論じた同時代史だ。寺山本人のようにとにかく饒舌(じょうぜつ)で、熱量が高い。多くの人物が実名のまま登場するが、現実と虚構の境界は曖昧(あいまい)で、スキャンダラスだ。
作品では、正反対の二つの視線が交差している。
一つは、現代の視点からクールに寺山を観察する視線だ。それは、馴染(なじ)みのない読者に彼をイントロデュースする役割を担うとともに、寺山修司論にもなる。中森は膨大な文献渉猟をふまえて、寺山の実像を「理屈ずくめ」「元祖シブヤ系」「寂しがり屋の父なし子」「子供たちのリーダー」等(など)と次々にキャッチーに描写していく。剽窃(ひょうせつ)や覗(のぞ)きだけでなく、彼のミソジニーやハラスメントも告発される。
もう一つは、反対に、寺山が私たちの時代を観察する視線だ。中森は憑依(ひょうい)されたかのように寺山になりきって、彼の死後に生じた出来事を論じ、現代を異化する。作中の寺山が『デスノート』や「ももクロ」や「キタサンブラック」を批評するパートは、最大の読みどころだ。寺山の読者には馴染みのフレーズやそのパロディーは数多く、出典探しの楽しみもある。学生のある時期に寺山を貪(むさぼ)り読んだ私も懐かしく頁(ページ)を繰った。
さらなる読みどころは、この「新人類の旗手」が寺山をいかに乗り越えたかだ。
物語では、時代に追いつかれた寺山の古さが露(あら)わになっていく。前衛的な市街劇は、いまや街おこしとして消費される。彼のアイドル論は、中森を思わせる作中人物に「古いっ!」と喝破される。では、このアイドル評論家は、寺山を総括するために、どんな代替やどんな結末を用意したか。スラップスティックのクライマックスは最後に訪れる。
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なかもり・あきお 1960年生まれ。作家・アイドル評論家。著書に『アナーキー・イン・ザ・JP』など。