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辻村深月さん「この夏の星を見る」 コロナ禍を駆けた10代、自身の青春時代も投影

辻村深月さん

コロナ下、ひたすらな中高生

 本作は、青春小説を書いてほしいという依頼を受けて、21~22年にかけて新聞で連載していた。「いまの青春小説なのに、コロナ禍を描かない選択肢はなかった」と辻村さんは話す。「3密」を避けてできる部活を考え、天文部にした。宇宙を前にすると、距離の感覚も変わる。「コロナ下では、距離を意識することが増えましたよね。県境を越えること、隣の人に手を触れること。でも、宇宙では月が近所。そう思うと五島と東京の距離なんて気にならなくなる」

 天文部で活動する高校2年生の亜紗(あさ)に、合唱コンクールが中止になり落ち込む幼なじみから電話がかかってくる。幼なじみの口から出てくるのは〈まあ、仕方ないよね〉〈覚悟してたし〉〈こんなことで落ち込むのも図々(ずうずう)しいのかもしれないけど〉……。自分の本音を封じた言葉だった。

 電話を切ったあと、亜紗は幼なじみにLINEを送る。〈悲しみとかくやしさに、大きいとか小さいとか、特別とかないよ〉

 天文部の顧問の先生が物語の終盤で語る言葉は、辻村さん自身が感じ続けてきたことでもあった。

 〈――失われたって言葉を遣うのがね、私はずっと抵抗があったんです。特に、子どもたちに対して〉

 執筆のため、高校生に取材をした。「子供たちは軽やかでしなやか。いまの時間、日々をひたすらに過ごすかれらにとっては、『この夏』しかなかった。失われた空白の時間なんてないんです」

登場人物が話してくれた様々な感情

 書き始める前は、言いたいことがあるわけではなかった。「登場人物が話してくれて気づけた感情がたくさんあった。小説はその時々の感情を縫い止め、真空パックできる。だから取り出すと鮮やかによみがえるんです」

 デビュー作「冷たい校舎の時は止まる」や、本屋大賞を受賞した「かがみの孤城」をはじめ、数々の作品で少年少女の心を描いてきた。青春小説は、20代の頃から大切に書き続けている、作家としての柱の一つだ。

 心情描写はいつも取材からではなく、自分の記憶から広げていく。10代の頃はうまく言語化できなかった感情がたくさんあった。表現する言葉を得たいま、映画監督になった気持ちで当時の自分をカメラに映している。諦めたり、達観したりしない。感情がむき出しで、繊細で、放っておけない青春時代の自分に、何度も出会い直している。

 読者のために、という気持ちで作品を書いたことはない。「強いて言えば、10代の頃の私くらい傲慢(ごうまん)な読者が、『大人のくせにやるじゃん』と感じてくれたらいいなと思って書いています」(田中瞳子)=朝日新聞2023年8月16日掲載