「東家の四兄弟」書評 「家族」なのに?「家族」だから?
ISBN: 9784396636531
発売⽇: 2023/10/12
サイズ: 19cm/289p
「東家の四兄弟」 [著]瀧羽麻子
「家族」について、何ひとつ思い煩うことはない、と言い切れる人など、この世に存在するのだろうか。
子どもが健康で大過なく成長し、希望どおりに進学就職しても、痩せた太った結婚するのしないのと気がかりは尽きず、親が無事に還暦過ぎたとて、趣味はあるのか、金はどうだ、ボケてくれるな、運転するなとヤイヤイ言いたくなる。
現実には、つつがなく成長し晩年を過ごせることなど奇跡に近く、そのどこまでを「心配」すればいいのかは実に悩ましい。
本書で描かれる「東家」は、一般的な見地からすれば、平穏に暮らす六人家族だ。駅前の雑居ビルの最上階で店を営む占い師の父・豊。勘が鋭く決断が早く保険外交員としての成績も優秀な母・陽美。上から朔太郎、真次郎、優三郎、恭四郎と名付けられた四兄弟。末っ子の恭四郎は現在二十歳の大学生だが、ほかの家族は全員、定職に就き、健康的な問題もない。親子関係も兄弟仲も決して悪くない。しかし、それでも気がかりな問題は次々に発生し、憂い煩い怒りもすれば疑心暗鬼にもなってしまう。
「別に」が口ぐせで、あまり家に寄りつかない長男と、父親を敬愛し、跡継ぎらしく兄らしくありたいと空回り気味の次男。兄弟一の「男前」にもかかわらず気弱で消極的な三男と、明朗快活で奔放な愛されキャラの四男。
問題の種は思いがけない場所に落ちていて、意外な芽を出す。同時に、占い師として父が過去に抱いた複雑な思いや、養護施設で育ち中学卒業後働き始めた母の来し方も明かされ、四兄弟はそれぞれに自分がこれまで見ていなかった家族の姿に気付いていく。
個々に異なる家族に対する距離感の描写が巧みだ。豊が真次郎に語る、「運命は、花壇みたいなものじゃないかな」という説にも、確かに!と膝(ひざ)を打つ。
どこまで口出しするべきかと迷っていた「心配」の加減を摑(つか)める物語だ。
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たきわ・あさこ 1981年生まれ。著書に、ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受けた『うさぎパン』、『博士の長靴』など。