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「たぶん私たち一生最強」書評 すぽん、すぽんと外れていく楔

評者: 吉田伸子 / 朝⽇新聞掲載:2024年09月07日
たぶん私たち一生最強 著者:小林 早代子 出版社:新潮社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784103517627
発売⽇: 2024/07/24
サイズ: 19.1×2cm/224p

「たぶん私たち一生最強」 [著]小林早代子

 「もうさー女友達と一生暮らしたいんだよね最近は!」
 高校時代から十年付き合った雄太と別れておよそ半年の花乃子(かのこ)が言う。その場にいた百合子、亜希、澪(みお)は花乃子の高校の同級生であり、十年来の友人どうしだ。
 恐らくは、酔った勢い&傷心から出た花乃子のその言葉が、けれど、するすると現実となる。26歳・独身女性4人のルームシェアが始まる。
 彼女たちにとってのルームシェアは、期間が限定された共同生活の場ではない。4人が目指したのは、一生4人で過ごしていくためのものなのだ。止まり木としてではなくて、〝巣〟としてのルームシェア。
 まず、その発想に、すぽん、と頭の奥で音が鳴る。自他ともに認めるセックス好きである百合子が抱える悩みと、その悩みに対して彼女が出した答えを読んで、またすぽん。亜希が娘を産み、4人で子どもを育てていくという展開に、またまたすぽん……。
 音が鳴るたびに、ひとつ、またひとつと、楔(くさび)が外れていく。それは、女はかくあるべき、という楔であり、恋愛とは、セックスとは、家族とは、子育てとは、かくあるべきという楔だ。時に噴き出し、時にぶんぶん頷(うなず)きながら、楔が外れていく解放感に浸る。
 さらに、そんな4人の母親の子どものひとりである恵麻(花乃子の娘)の視点で語られる最終話。この一編で本書を締め括(くく)ったことで、物語に深みが増す。「試験管生まれシェアハウス育ち」である恵麻は、4人の母親たちの物語を、「私の物語ではない」と軽やかに言いきるのだ。その健全さが、清々(すがすが)しく愛(いと)おしい。
 そう、最強とは、ありのままの自分でいることなのだ。彼女たち4人は、その手段として一生一緒にいることを選択したけれど、それはあくまでもサンプルの一つだ。
 かくあるべき、に囚(とら)われることなく、伸びやかであれ。作者からのエールを、そっと胸に置く。
    ◇
こばやし・さよこ 1992年生まれ。「くたばれ地下アイドル」で第14回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞。