まるで写真のよう。おせち料理を一品ずつ精巧に描いた絵本「おせち」(福音館書店、1100円)が、11月に発売された。約1カ月間で6刷を重ね、9万1千部を発行。異例の人気を集めている。文と絵を手がけたイラストレーター内田有美さんは、これが絵本デビュー作。「幅広い年齢の方が手にとって下さってうれしい」と話す。
内田さんはコロナ下だった2020年に、「おせちをテーマに絵本を作ってみませんか」と福音館書店から連絡を受けた。担当の関根里江さん(こどものとも第一編集部編集長)が10年ほど温めていた企画。雑誌の表紙に載っていた、内田さんによる精巧なモンブランのイラストを見て依頼した。
内田さんに「日本独自の食文化を知ってもらういい機会になる」と伝えると、すぐに制作が決まった。料理研究家の満留邦子さんに数日かけておせち料理を作ってもらい、一品ずつ200枚ほど写真に収めた。画角が同じ写真を選び、実物に合わせて色味を調整。こうした写真をそばに置き、内田さんが水彩色鉛筆、アクリル絵の具、油性色鉛筆で、忠実に再現した。
絵には、各料理に込められた願いや意味を紹介する文を添えた。黒豆は「まめまめしく くらせますように」、六角形のサトイモは「なんのかたち? かめのこうら かめのように ながくいきられますように」。リズミカルな文体は「内田さんと繰り返し声に出して読み、子どもに伝わる言い回しは何だろうかと考えた」(関根さん)。
昨年12月に発売した月刊絵本、10日間で品切れに
昨年12月に、月刊絵本「こどものとも年中向き」として刊行したところ、10日間で品切れに。計9千部を急きょ増刷したが、それも完売。この年末年始に合わせて、11月に単行本を出すことになった。
福音館書店の月刊絵本は、刊行後3年間はバックナンバーが入手できるように在庫を確保し、その後単行本にするかどうかを検討するのが通例という。一方、今回は刊行直後に繰り返し品切れになり、異例の速さの単行本化となった。
読者の感想も数多く寄せられている。
正月に親族が集まった時に、祖父母が、2歳の女児に読み聞かせをしたという読者もいた。保育園で働く読者からは、園で読み聞かせをしたところ、子どもたちがレンコンやエビなどに込められた願いをすぐに覚え、皆で話がはずんだとのエピソードが寄せられた。
内田さんにも、金沢市に住む人からメールで感想が届いた。能登半島地震の発生後、自分の息子が、被災地から避難してきた子どもと一緒に「みんなで楽しくこの絵本を読んだそうです」と書かれていたという。
地震が起きたのは今年1月1日。昨年12月に月刊絵本が出版された直後だった。被災地では普段どおりの正月が送れなくなった人たちがいることを考え、内田さんは「この本を出してよかったのか」と自問自答していた頃、このメールを読んだ。「励まされて、胸が熱くなった」
和文化研究家の三浦康子さんが監修した。内田さんは「多くの方の協力で1冊の本ができた過程がすごく楽しかった」。次作の打ち合わせを始めたところだ。=朝日新聞2024年12月28日掲載