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「世界が眠っているあいだに」/「コンゴ、血染めの川」 主権を盗まれた側に立って語る 朝日新聞書評から

評者: 酒井啓子 / 朝⽇新聞掲載:2026年09月26日
世界が眠っているあいだに: パレスチナの物語、言葉、傷 著者:フランチェスカ・アルバネーゼ 出版社:地平社 ジャンル:社会・政治

ISBN: 9784868630050
発売⽇: 2026/08/04
サイズ: 14×19.5cm/296p

コンゴ、血染めの川;アフリカを変えた探検家、ヘンリー・モートン・スタンリーの足跡を追う 著者:ティム・ブッチャー 出版社:彩流社 ジャンル:社会・政治

ISBN: 9784779129933
発売⽇: 2026/07/07
サイズ: 18.8×2.8cm/480p

「世界が眠っているあいだに」 [著]F・アルバネーゼ/「コンゴ、血染めの川」 [著]ティム・ブッチャー

 赤根智子国際刑事裁判所長がトランプ政権下のアメリカから制裁を受けて資産凍結などの措置を受けたことは、日本国内でも衝撃をもって受け止められた。赤根氏に限らず、イスラエルの戦争犯罪を糾弾する国際機関でアメリカの圧力を受けた例はこれまでも多々あったが、『世界が眠っているあいだに』の著者、F・アルバネーゼも、1年以上も制裁を受け続けている。被占領パレスチナ担当国連特別報告者として、イスラエルのガザ攻撃をジェノサイドと言い切り、イスラエルの占領地に対する行為を入植者植民地主義と断罪する、舌鋒(ぜっぽう)鋭い国際法学者かつパレスチナ問題研究者だ。「私は初めて本当に憤慨しています」で始まる彼女の国連での発言を本書の冒頭に挙げたことが、全てを語る。
 一方で『コンゴ、血染めの川』は、西欧列強がアフリカ大陸進出を本格化する19世紀末にコンゴ川を旅した探検家スタンリーの足跡を、著者T・ブッチャーが追う冒険譚(たん)だ。
 一見無関係なこの2冊には、強烈な共通点がある。第一は、植民地支配がもたらし続ける被支配地への深刻な影響である。コンゴはベルギーの過酷な植民地支配を受けたが、その支配の残滓(ざんし)は、独立後の独裁体制の深奥にもみてとれることを旅の途中の各地で目撃する(ブッチャー)。パレスチナでは、イスラエルの支配と収奪という入植者植民地主義こそが問題の根幹にあり、「西洋帝国主義とイスラエルが切れ目なくつながっている」(アルバネーゼ)。
 第二は、両者とも支配と暴力の犠牲者の、累々たる遺体の上に立つことを自覚した上で語っていることだ。進行中のガザ戦争で日々命を奪われるパレスチナ人の子どもたちの話に心を抉(えぐ)られる一方、ブッチャーは移動のたびに「ちゃんと弔ってやることもできないほど亡骸(なきがら)が地面に山積み状態」に出会う――公式には内戦は終わったはずなのに。
 第三の共通点は、この累々たる屍(しかばね)から、著者たちが逃げないこと、そして逃げない人たちと行動を共にし、彼らを物語の主人公としている点だ。「白人」で「植民地主義者」の側に生まれた著者たちが、犠牲者側であれ加害者側と同じ出自を持つ者であれ、第三者であれ「よそ者」であれ、この世界から見捨てられつつある植民地支配と紛争の被害をいかに止めるか、どう誠実性を守るかを模索する。
 2人が寄り添うのも、期せずして同じだ。現地の、「主権」を盗まれた人々(ブッチャー)、そして、世界の「無関心」によって忘れられつつある人々(アルバネーゼ)。いずれの本も、ともに行動し学んだ人たちへの献辞が、熱い。
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Francesca Albanese 1977年イタリア生まれ。法律家、教員、研究者。過去に国連パレスチナ難民救済事業機関などに勤務▽Tim Butcher 1967年英国生まれ。英デイリー・テレグラフ紙の戦争特派員だった。
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「世界が眠っているあいだに」は原口昇平訳、「コンゴ、血染めの川」は社本雅信訳。