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「パーチとマーチとフラワーさん」どいかやさんインタビュー 森の小さな隣人から生まれた物語

『パーチとマーチとフラワーさん』(教育画劇)より

小さなリスのお隣さん

――絵本作家デビュー30周年おめでとうございます。新刊『パーチとマーチとフラワーさん』が発売されましたね。

『チップとチョコのおでかけ』が出版されたのは26歳のときです。そのときも担当だった編集者と、「小さな子どもさんが楽しめるストーリーの絵本をつくりたいね」と何年か前から話し合っていて。このたび『パーチとマーチとフラワーさん』を作家30周年という節目に刊行でき、うれしい記念になりました。

――子リスのきょうだい「パーチ」と「マーチ」が、木々の葉っぱの間を「カサコソ スリリン」と元気に走り回っています。リスを主人公にしたのは?

 私のうちは千葉の森の中で、部屋の窓越しに、ニホンリスが木の上をうろうろしているのが見えるんですよ。ほっそりしていて動きがすばやいので、録画しようとスマホのカメラを向けても、なかなか撮れないんですけど。お話の登場人物はどんな子にしようかな、と考えていたとき、「リスちゃん、かわいいな」と。

 以前、パーチとマーチという名の2匹の子ネコが頭に浮かんだことがあって、「その2匹をリスで描いてみたら?」という発想と、かわいいリスが遊びにきてくれたら素敵だろうなぁというイメージからお話が誕生しました。 

『パーチとマーチとフラワーさん』(教育画劇)より

――絵描きのフラワーさんが庭で何かしているのを見たリスたちは、木からおりてきて、「ねえ ねえ フラワーさん」「なにしてるの? フラワーさん」と耳もとで話しかけます。

 私は保護猫活動に関わっているので、子ネコをうちで預かることがあります。首もとに子ネコが来てじゃれると、やわらかいふわふわの毛がくすぐったくて……クスクス笑いたくなるんです。その感触を思い出しながら描きました。

 フラワーさんは、ちょっと不思議な絵描きさんです。シャボン玉にもお花の絵を描くことができちゃうので、絵の具に不思議な力があるというか……。絵本では具体的に書いてないけれど、フラワーさんは、自然界のいろんなものから絵の具を手作りしているという設定のエピソードが、私の心の中にはあります。パーチとマーチにとって、やさしいフラワーさんは、きっと頼りになるお隣さんでしょうね。 

『パーチとマーチとフラワーさん』(教育画劇)より

日常の「やってみたい!」に挑戦

――「せんたくを しているんだよ」と言うフラワーさん。興味を持ったパーチとマーチは、自分たちもやってみたい、と言います。

 子リスのきょうだいがはじめて何かを体験するところを描いてみようと思いました。これまでやったことのない、ごく日常的なこと……。小さな子が絵本を読んで、「自分もやってみたい!」と思うことって何かな? と考えました。

 今は洗濯機で洗っちゃいますけど、「ものを洗う」って楽しいですよね。水でじゃぶじゃぶしたり、洗いたての洗濯物をしぼって干したり、おひさまで乾いたときの気持ちよさも……。そんななにげない楽しさを経験してもらいたいなと。

 それに、リスが小さな手でものをキュッとつかんでいるところって、見ていてキュンとしちゃう。フラワーさんとの交流のほんわかした感じや、やりとりの中での安心感を描くのにもいいなと思いました。

 絵本は、たいてい、暮らしの中の「こんなふうでありたい」という理想や憧れから自然に出てきたものを描いています。読んだ方にホッとしてもらいたいな、という思いがあるかもしれませんね。

 

『パーチとマーチとフラワーさん』(教育画劇)より

古いチェコスロバキアの絵本に魅了されて

――どいさんは、いつから絵本に興味を持つようになったのですか。

 子どもの頃は、お話上手な祖母の語りで育っているので、絵本をそんなにたくさん読んでいないんです。クリスチャンの祖母が語っていたのは、聖書のお話や、戦争前のにぎやかな横浜の町の話、戦争中の苦労話など。とにかくいろいろな出来事をドラマチックに話すのが上手な人で、祖母の膝をまくらにして、声を聞いているだけで、安心して心がほどけていく……そんな時間でした。

 絵本を意識したのは中学生のとき。たまたま友達が学校に持ってきたのを読んで、おもしろいなと思って見るようになりました。美大受験のために予備校に通って、最寄り駅の本屋のワゴンセールで洋書絵本を見つけて、古い外国の絵本に興味を持ちました。はっきり覚えているのは、大学生のとき、構内に定期的に古本屋さんが本を売りに来ていたのですが、1970年代に刊行された「月刊 絵本」の「チェコスロバキア(*)の絵本特集」を見て、衝撃を受けたことです。

*当時はチェコスロバキア。現在は、チェコ共和国とスロバキア共和国に分かれて2つの国になっている。

「なんだろう、この絵は。見たことない!」と。犬やネコを描いた線の美しさ、体のフォルムに見惚れました。それは1930年代にチェコスロバキアで出版された、カレル・チャペックやヨゼフ・チャペックの子犬と子ネコ、ヨゼフ・ラダの黒ネコなど、いくつかの絵本のカット。すごくかわいくて、夢中になりました。その頃、ラダみたいな絵をいっぱい描いています。

 数年後にようやく古本で『黒ねこミケシュのぼうけん』(ヨゼフ・ラダ作)、『こいぬとこねこはゆかいななかま』(ヨゼフ・チャペック作)(**)を手に入れて、「これだー!」と感激しました。ちょうど日本語版が品切れで、新刊書店では買えなかったんです。読んでみたらやっぱりおもしろくて大好きになりました。

 私のデビュー作『チップとチョコのおでかけ』は、『ダーシェンカ、あるいは子犬の生活』(カレル・チャペック作)、『黒ねこミケシュのぼうけん』の影響を受けています。

**当時の日本語版は『こいぬとこねこはゆかいななかま』(いぬいとみこ・井出弘子訳、童心社刊)。現在は『こいぬとこねこのおかしな話』(木村有子訳、岩波書店刊)として刊行されている。

 

デビュー作となった絵本『チップとチョコのおでかけ』

色鉛筆で「描きたい絵」に近づけるという発見

――あたたかみのある鉛筆のタッチが魅力です。色鉛筆で描くようになったのはいつからですか?

 大学時代はオイルパステルや、授業で経験したシルクスクリーンなど、いろいろな画材・技法を試しました。もともと印刷物が好きで、リトグラフで描かれたものがとくに好きだったけれど、版画はきちっとした工程を踏まないといけないので、性格的にちょっと私には向いてないと思っていました。

 大学卒業後も、いろんな展示を見に行っては、心を動かされたものを取り入れて描いてみる……という感じの頃、アメリカの古い絵本作家の、ガァグ、バートン、エッツの3人の原画展を見に行ったら、鉛筆で描いたように見えた絵があって。「そっか、鉛筆で描いてもいいんだ! 私も鉛筆で描いてみよう」と目から鱗が落ちたように感じたんです。

 絵本作家養成ワークショップ「あとさき塾」のオーディション作品を描く時期だったので、当時住んでいたアパートに帰ってすぐ、ざらっとした風合いの紙に鉛筆で描いてみたら、「自分はこんな絵が描きたかった」という絵に近づいて、感激しました。

 それまでは、絵本は絵の具で描くもの、と思い込んでいました。でも自分が描きたい絵とどこか違うとも感じていて。鉛筆で描いてみたら「リトグラフっぽい絵」になり、しかも絵の具よりずっと楽に描ける! と嬉しくて……。それから色鉛筆で描くようになりました。

 ちなみに、「あとさき塾」のオーディション応募作品として描き上げたものは、のちに『たまちゃんとあかちゃん』(Gakken)として刊行されています。

生き物も人も、付き合っていくのがおもしろい

――どいさんの絵本は、一貫して、自然や生き物に対する敬意が感じられます。

 動物が好きだったこともあり、20代の頃から、早くどこかに根を下ろして自然の中で暮らしたいと思っていました。千葉の山中での暮らしは、もう25年になります。ネコと暮らしているのでネズミをしょっちゅうとってくるし、死んでいる動物を見ることも多くて……。自然に近いということは、生死に触れることが多い生活です。

 私はやっぱり人や動物とかかわることが好きなんです。子どもさんには、絵本や映像もいいけれど、実体験をしてもらいたいなと思います。だって、生(なま)の動物や人との付き合いが一番おもしろい。田舎で暮らしていると、人と関わり、助け合っていくことが必要不可欠です。決して楽しさだけじゃなく、揉め事も当然あって、しんどいこともあるんですけど、それがおもしろい。

 この30年間を振り返ると……、絵本を描きはじめた頃は、常に頭の中にお話が20個くらいあったんですよ。「次はあれを描かなきゃ」と追われるように描いてきたのですが、今それがなくなってきて、すごく楽です。今はむしろ、ちょっと探すような新鮮な気持ちで。描きたいことに出会うのを楽しみに、これからも描いていきたいなと思います。

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