外国につながる子どもの就学支援とは?――「不就学ゼロ」をめざして
記事:明石書店
記事:明石書店
まずは「はじめに」より、編著者の小島祥美先生の文章から――
私が暮らす地域にある多くの学校は、COVID-19の感染拡大を防ぐための政府からの要請によって、2020年3月から臨時休校になりました。子どもたちにとって自粛生活が続く3月末、4歳(当時)の息子と近所の公園へ行ったときのことです。見かけたことのない、息子くらいの年頃の子どもたちが、ブランコで遊んでいました。その子たちにポルトガル語で話しかけるママの姿を見つけ、私はつい、声をかけてしまいました。すると、「去年に来日したばかりで、日本語もわからないから怖くて」と話し出すママ。恐怖感に襲われて、この1か月間は子ども3人と自宅に閉じこもっていた、というママの話は止まりませんでした。4月に入ると、近所に暮らす外国につながる子どものママたちからは、「夜勤がなくなって昼勤だけになった」「週3回の勤務になった」など、就労環境が変化していく話を聞くようになりました。「仕事を求めて引っ越すから、子どもは転校することになった」という家族もいました。また、保護者の雇止めや派遣切りによって、「高校受験に合格したけど、制服や定期券などを買うためのまとまったお金がないから」と、高校進学をあきらめる中学生にも会いました。COVID-19の拡大は、保護者の就労だけでなく、発達段階にある子どもの学びや進路にも直撃したのです。
学ぶことができなかった/止まった時間をどのように取り戻すか。このことは、子どもたちの今後の成長や進路にも大きく関係することでしょう。外国につながる子どもの「不就学ゼロ」をめざし、これまで本気で取り組んできた私。こんなときだからこそ、ポストコロナを見据えて、外国につながる子どもたちの就学を支える体制の強化が必須と考えました。題して、「こんなときだからこそ」プロジェクトです。
この私からの呼びかけに、情熱をもって活動されている全国の同志や仲間、尊敬する第一人者の研究者や実践者の方々から、賛同いただきました。本書の執筆者の共通点は、情熱をもって「お仕事」されている方であること。そのため、どの方もかかわる地域や学校などの現場で培った事例や根拠に基づいた実践から、わかりやすい言葉で執筆くださいました。
Q&A編では、「学校や学級にやってくる!」「学校生活のスタート!」「進路保障」の3つのシーンに分けて、学校での対応についてわかりやすく解説します――
Q 本人や保護者と最初に出会った時に確認すべきことを教えてください。
A 連絡先や成育歴等、本人について指導上必要な事柄を確認し、日本の学校生活や提出書類について丁寧に説明しましょう。そのためには、事前の準備が重要です。
Q 宗教の違いに合わせて学校でできる支援はありますか?(お祈り、給食、服装等)
A いろいろな支援ができます。保護者や本人と相談しながら、学校でできること・できないこと(保護者に対応してもらうこと)を確認しましょう。
Q 保護者にはどんなサポートが必要でしょうか?
A 保護者とは、①顔を見て話すこと、②自国の文化を教えてもらうこと、③つながりを作ること、の三つが大切です。
Q 担任にもできる初期の日本語指導法を教えてください。
A まずは、簡単なコミュニケーションがとれるようにすることが大切です。言葉を教えるときは、場面と実物や絵、写真などと一致させて教えるとよいでしょう。
Q 母語や母文化を大切にしたいですが、どのような実践方法がありますか?
A 母文化にふれる「多文化共生」の実践、日本語・教科の学習のための「母語活用」、母語の保持や育成を目的とした「母語保持支援」が考えられます。
Q 発達障害が疑われる子どもへの支援方法を知りたいです。
A 時間をかけて丁寧に見守り、複数で支援のためのリソースを探りましょう。
Q ICTを活用して、どんな授業ができるのでしょうか?
A ふだんの授業を動画に撮って配信する、双方向で会話ができるライブ授業をする、調べ学習に活用するなど、さまざまな形で活用できます。
Q 高校受験に向けて、中学校ではどんな指導が必要でしょうか?
A 中学校の教員が「外国人だから」と生徒を分けて考えてしまい、「他の生徒のように進路指導ができなくても仕方ない」と思い込まないことが大切です。責任をもって指導要領様式1の進学先・就職先に、他の生徒と同じようにきちんと学校名や会社名を記しましょう。
Q 海外の学校や外国学校の卒業生も、日本の大学に入学できるのでしょうか?
A 入学できます。ただし、次に示すような要件を満たしている場合です。
事例編では、「プレスクール」「既卒生」「ダイレクト受験生」「在留資格のない子ども」「地域連携」…といった13のテーマから、進路を切り拓く方法を具体的に学びます。ここでは、「居場所づくり」のさわりの部分を少しだけ――
「どうして私は日本に来たの?」「一言もわからない授業をどうして一日中聞かなければならないの?」外国から来たばかりの子どもはやっとの思いで教室に座っています。何とか日本語でやりとりができるようになっても、何でも話せる友だちはできず、授業は半分も聞き取れず不安でたまりません。日本生まれでも家の中で日本語以外の言語が使われていて、日本語が十分に身に付かず授業がわからなくなった子ども、家庭の問題で悩んでいる子どももいます。自分の努力だけでは長いトンネルからなかなか抜け出せません。
子どもたちにとって日本語学習の場はもちろん大切ですが、学校や家以外に、①自分らしく安心していられる場所、②共感できる仲間、ロールモデルとなる先輩、③支えてくれる大人の存在はなくてはならないものです。「いつ・どこで・どんな人に出会うか」はその後の人生に大きな影響を与えます。
私は日本語指導員として30年以上外国につながる子どもたちに接してきました。子どもたちが苦難を乗り越え自信に満ちた顔つきになって成長していくのを見るのはうれしいものです。ここでは、大人の支援者と子どもたちがどのように「居場所づくり」をしてきたか、そこから生まれたものは何か、熊本県での三つの事例をご紹介したいと思います。