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日本経済はどうやって危機を乗り越えてきたのか 『日本金融百年史』より

記事:筑摩書房

金融・経済の歴史を追い、歴史の教訓を見誤らないためにこの百年を振り返る
金融・経済の歴史を追い、歴史の教訓を見誤らないためにこの百年を振り返る

 一九二〇(大正九)年三月、株式市場ではどの銘柄も軒並み相場が暴落した。当時この事態は「瓦落」と呼ばれた。今で言えばバブルが崩壊したのである。この瓦落をはじめとして、日本は様々な経済危機に直面した。

 本書はこの瓦落からスタートして一〇〇年の金融の歴史を追いかける。株式市場をめぐる歴史、あるいは銀行システムをめぐる歴史のなかで、日本経済はしばしば危機に見舞われた。その危機をどう乗り越えたのかが全体を貫く共通のテーマである。

 ただし、平成の時代について説明する箇所になると本書の力点が変わる。危機への政策対応において、昭和初期の歴史の教訓が意識されたのである。平成の時代について語る際には歴史の教訓を活かす試みの是非を説明することに力点が移ることになる。

経済成長に影響を与える「ナラティブ(narrative)」

 一貫した視点やキーワードがなければ筆者自身が筆を進めることはできなかった。本書が寄って立つそのキーワードとは、「ナラティブ(narrative)」である。

 ナラティブは物語と訳されるが、特に口々に語られる状況を指している。つづりがナレーション(narration)と似ている点はヒントになるだろう。ナラティブは、人々の間でシェアされる何らかのビジョン、噂、あるいはスローガンのことでもある。

 筆者がこの原稿を進めつつあるさなか、NHK大河ドラマ『青天を衝け』が放映されている。このドラマのセリフのなかで攘夷思想を「流行り病」と表現する箇所がしばしば登場する。登場人物が攘夷思想の広まる様子を感染になぞらえているのである。こうした「流行病のように蔓延する話題」こそナラティブである。

 様々なナラティブのなかで、本書が最終的なターゲットにするのが「歴史の教訓」である。ナラティブが制度変更や経済成長に影響を与えるプロセスを確認しつつ、金融システムをめぐる制度変更や政策において歴史の教訓と称したナラティブが影響したなりゆきを説明する。

関東大震災、金融恐慌、高度成長、バブル、金融ビッグバン……

 各章でどのような話題に言及するのかを示しておく。

 第一章「瓦落と震災」は、一九二〇(大正九)年の株価暴落、すなわち瓦落から一九二三(大正一二)年関東大震災について、それぞれの危機がどのようにして深刻化したのか、さらにどのように危機が克服されたのかを説明する。

 第二章「金融恐慌とプルーデンス政策」は、一九二七(昭和二)年の金融恐慌について説明する。金融恐慌については大蔵大臣の失言が引き金だと説明されることも少なくない。この章はそうした説明に否定的であり、銀行システムへの不信が失言とあまり関わりなく蔓延したプロセスを説明する。

 第三章「国際金本位制をめぐって」は、一九三〇(昭和五)年の昭和恐慌とその克服について説明する。国際金本位制への復帰に関するナラティブの現代的意義とともに、復帰の何が問題だったのか、さらに復帰がもたらした大不況の様相とその克服について説明する。

 第四章「コーポレート・ガバナンスの変容」および第五章「高度成長への道」は、株式会社における経営者の姿勢のただし方を軸として、金融の歴史を説明する。このうち第四章では株主の役割が弱体化されて政府の役割が強化されるプロセス、第五章では銀行の役割が強化されるプロセスを説明する。

『日本金融百年史』(ちくま新書)書影
『日本金融百年史』(ちくま新書)書影

 第六章「自由化とバブル」は、一九八〇年代のバブルが発生した原因と、崩壊したあとの顚末について説明する。同時に、バブル崩壊後の政策対応について金融恐慌に関する歴史の教訓の引き出し方に問題があったことを指摘する。

 第七章「今そこにある歴史」は、一九九〇年代の金融ビッグバン以降の状況について説明する。ビッグバンが不備を抱えながら実施された点、さらには日本銀行が伝統的な枠組みに囚われることなく政策を実施するようになった経緯を説明する。

本書でフォーカスする二人の人物

 これら七つの章での説明に際して、本書は二人の人物の生涯をフォーカスする。この二人は、本書において会話もなければ出会いもない。二人は決して金融の世界で活躍したわけではないが、それぞれの人生の様々な局面で金融史の動きに関わっている。この二人がそれぞれ誰であるかは第三章で明らかにする。
 では、一〇〇年におよぶ金融の物語、幕開けである。

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