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神話はどのように読み解くのか『神話でたどる日本の神々』

記事:筑摩書房

トヨタマビメが出産をした場所と伝えられる洞窟の中に本殿がある/鵜戸神社 写真提供:kattyan/PIXTA
トヨタマビメが出産をした場所と伝えられる洞窟の中に本殿がある/鵜戸神社 写真提供:kattyan/PIXTA

神話とは何を伝えたいのか、どんな意味があるのか?

 神と神が結婚して、子としてわれわれが暮らしている島が生まれたとか、女神が洞窟に引きこもったら真っ暗闇になったとか。神話の中では現実世界にはあり得ないような出来事が語られています。日本の神話だけがそのように奇想天外な話なのではなく、他の地域の神話をみても、天の神と大地の神が結婚して神々が生まれる話があったり、三つの頭と蛇の尾を持つ犬が冥界の入り口にいたりするなど、これまた負けず劣らず不思議な話が展開しています。神話と総称される物語はたいていそのように不思議な話です。

 神話とはいったい何を伝えたいのか。この物語にはどんな意味があるのか。そう思うのは、科学が発達した現代の人だから、というわけではありません。この疑問について、古代ギリシャではすでに代表的な二つの考え方が示されています。一つは、寓意説というもので、神話とは、自然や倫理的原理の寓意(アレゴリー)だと解するものです。たとえば英雄の竜退治は、正義が悪と対峙し、それを克服する話を象徴しているのだ、といった具合です。アフロディテという美の女神であれば、欲望を象徴していると解釈したりします。

 もう一つはエウヘメリズムというもので、これは紀元前300年頃に活躍したエウヘメロスを代表者とする考え方でした。ギリシャ神話にはヘラクレスやペルセウスといった父は最高神ゼウスで、母は人間の女性という英雄たちが登場し、縦横無尽に活躍します。彼らのような半神半人の英雄は、実在の王たちの先祖であるとされたりしました。そのことも大いに関わっていると思いますが、実在の人物を賞賛する話がいわば大げさになっていったために、戦う相手は人ではなく恐ろしい姿をした怪物となり、戦い方も奇想天外になっていったのだというものです。

神話についての解釈

 神話は、なにかの原理を象徴的に表現しているのか。それともその背後に歴史的な事実があったのか。神話についての解釈は、今もこの二つの見方に集約されていくように思います。アマテラスが天の岩屋に籠もり、真っ暗闇になったという話は、嵐によって太陽が隠れたということを表しているのだという解釈があります。これは寓意説といえるでしょう。同じ天の岩屋の神話を、邪馬台国の卑弥呼の死という歴史的事実を表現したものだと解釈する人もいます。まさにエウヘメリズムです。より有名なエウヘメリズム的解釈としては、アマテラスがオオクニヌシに国譲りを求めた神話の背後には、大和朝廷と地方の豪族との対立と和解という歴史があるのだというものもあります。寓意説とエウヘメリズムのどちらの見方が正しくて、どちらかが間違っているということは言えません。神話の解釈には困ったことに「これが正解だ!」というものはまずなく、多くの人が賛成するかどうかで正解に近いかどうかを判断するようなところがあります。もちろん時代によって多数派になる解釈も変わっていきます。

『神話でたどる日本の神々』(ちくまプリマー新書)書影
『神話でたどる日本の神々』(ちくまプリマー新書)書影

 今回ちくまプリマー新書として『神話でたどる日本の神々』を送り出すことができました。今の私が考えている日本の神話の解釈について、神々を軸にして描き出してみました。私が神話学という学問の世界に踏み出して二十余年経ちますが、振り返ってみると自分の神話の解釈も変化していることに気がつきます。年齢を重ねたり、職場での役割や家庭環境の変化などが神話の読み解きにも影響を与えているように感じられます。性や年齢、社会での役割、家族構成、異なった立場の人たちがそれぞれに神話を読み解いて感想を言い合ったら、新しい解釈が生まれて楽しいのではないかと考えたりします。この小著は、私の読み解き。共感しない人もいるでしょう。ひょっとしたら後の時代になって完全否定されるものもあるかもしれません。それでも、一つの読み解きが、神話談義の口火を切るきっかけにでもなればと願って送り出します。

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