物語に基づく医療って? 病気ではなく人をみる「心療内科学」へのとびらを開く
記事:朝倉書店
記事:朝倉書店
からだ、こころ、それをとりまく社会との関連を含め、病をもつ「人」全体をみる学問です。
心理面、社会面と身体面との関係(心身相関)を含む全人的医療を行うための総合内科医になるべく、具体的な方法を確立し実践することが心療内科学の主眼点である。また、医学は専門別になり、ますます細分化されていくのが現状である。大きなダンボール箱に細かく専門別されたさまざまな大きさのボールを入れたとしよう。入れれば入れるほど隙間ができる。またダンボールをひっくり返したとしよう。それぞれのボールはつながりがないため霧散してしまう。心療内科学の役割は隙間を埋めることと霧散しないようにボールとボールをつなぎとめる役割もあるのである。『心療内科学』(p.3)
「からだの病気のなかで、こころの面や社会的な要因が影響を及ぼしているもの」です。精神疾患とはちがいます。
心身症はpsycosomatic diseaseの邦訳である。本邦では心身症に定義を設けている。すなわち、「心身症とは身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」(心身医31: 537-575, 1991)。身体疾患であること、病態であって疾患名ではない点、精神障害でないことに留意する必要がある。心身症の診断には心身相関が明らかであるか、その可能性が強く示唆される必要がある。『心療内科学』(p. 27)
◆厳密にいうと……?
狭義の心身症とは、定義にいう心理社会的因子の関与が明らかで、その結果としての身体的障害(表1)をいう。(中略)心理社会的因子としては、受験、結婚、離婚、死別、対人関係の軋轢、夫婦間の葛藤、借金などのライフイベント、長時間労働、ノルマ-裁量権不均衡業務、職場内人間関係、職種変更などの職場ストレス、通勤ラッシュ、各種ローン決済、近隣との付き合いなどの日常苛立ち事などがある。『心療内科学』(p. 27)
◆ひろくとらえると……?
広義の心身症とは、定義から外れるものの、心療内科領域で臨床的対応を求められることの多い疾患群、さらに心療内科的対応が求められる各種の状況である。いわば中核的な心身症の周辺に位置する二次的心身症といえる(表2)。(中略)これらの近縁疾患・状況はその領域を問わずいずれも心身両面からの全人的な対応が必要である。
(中略)心身症周辺疾患とは、心身症ではないが、鑑別疾患として心得ておくべき疾患群をいう。
『心療内科学』(p. 28)
患者の語る物語をていねいに聞き取り、さらに患者との対話のなかで生まれる新しい物語を大切にしながら治療につなげていくことです。
NBM(注:物語に基づく医療、narrative-based medicine)の重要な特徴のひとつは「患者と医師の対話から浮かび上がる新しい物語が治療的な影響(impact)をもたらすことに期待する」というものである。NBM は、患者との会話を、治療のための手段というよりは治療そのものとして理解する。NBM は、患者の物語を第一に尊重するが、医療現場にはいろいろな視点からの複数の物語が共存することを認める。NBM は医療における意思決定において、医療者と患者の対話を最も重要なものと見なす。患者と医療者の物語が一致するとは限らず、むしろ食い違うほうが普通であることを認める。複数の人が関われば当然複数の物語が生じる。NBM は、複数の物語をすり合わせる中から、新しい物語が浮かび上がってくるプロセスを最も重要なものと考える。ここでいう「新しい物語」とは、決して大げさなものではなく「これまでどうしてよいかわからなかったが、とりあえずこれでやってみようと思う」といったささやかな物語が生まれ、共有されることが大切なのである。このような新しい物語の共同構成が生じるとき、その患者が苦しむ「病い」に対して、治療的インパクトといってよいほどの大きな影響をあたえることは十分に納得できることだろう。『心療内科学』(p. 344~345)