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どうしたら社会科で女性の姿が見えるようになるのか――『女性の視点でつくるジェンダー平等教育』

記事:明石書店

『女性の視点でつくるジェンダー平等教育』明石書店
『女性の視点でつくるジェンダー平等教育』明石書店

女性教員が少ないのは理系だけではない!社会科はもっと深刻

 社会科では女性があまり見えない。2019年の教員統計によると、中高社会科の女性教員は理科や数学と同じ水準か、さらに少ない。自分が学んだ中学や高校時代の社会科教員のイメージを大学生に聞くと「中年のおじさん」と返ってくる。中学校歴史教科書の女性は以前より増えたものの卑弥呼や紫式部など10人台にとどまる。このような社会科を通じて日本や世界の社会について学ぶ児童生徒は、女性のいない社会を現実でも違和感なく受け入れてしまうのではないだろうか。どうしたら社会科で女性の姿が見えるようになるのだろうか。

 2018年に共著で『女性の視点でつくる社会科授業』(升野伸子・國分麻里・金 玹辰)を学文社より出版した。それまでも女性やジェンダーに関する授業実践を紹介した文献はあったが、小・中・高の社会科系の授業実践をこうして一冊にまとめたものは初めてであった。ここでは社会科の女性教員が自らのフィールドで授業実践を行いながら、その有効性を検証し、社会科で「女性の見える授業」を提案してきた。それから5年。学会レベルでは目に見える変化があった。例えば、日本社会科教育学会ではダイバーシティ委員会がつくられてジェンダーが取り扱われたり、社会科とジェンダーに関する課題研究が全国研究大会で開催されたりした。また、全国社会科教育学会ではジェンダーバランスに配慮した役員構成に言及する会長挨拶が聴けるようになった。

中学校 担任教科別 教員免許状別教員構成(2019年度)
中学校 担任教科別 教員免許状別教員構成(2019年度)

高等学校 担任教科別 教員免許状別教員構成(2019年度)
高等学校 担任教科別 教員免許状別教員構成(2019年度)

なぜ女性やジェンダーに関する授業実践が少ないのか

 しかし、授業実践はどうであろうか。そうしたことに意識のある教員が以前からジェンダーに関する授業実践を行っているものの、その数が目に見えて増したという実感はない。どうしてだろうか。

 先日、ある座談会で家庭科教育を御専門とする方の発言にハッとすることがあった。一般的に女性は内(うち)、男性は外(そと)という区分けがあり、家庭科は主に女性が担っている内の話だが、女性は外の社会にいる男性を受け入れ、男性も参入しやすい。しかし、外の話である社会科には男性が多く、内にいる女性はここには参入しにくい。男性は女性を外の社会に入れることをなかなか許さないからというものであった。ホモソーシャルな男性同士の結びつきが強いことを表していると言えよう。また、民主主義を唱えるリベラルな男性でさえもジェンダーには無頓着という発言もあった。中等教育での社会科教員の男女比率、教科書での女性叙述の少なさだけでなく、このような意識も授業実践の少なさに結びついているのであろうか。

少数であっても確実に存在する女性を授業実践に組み込む

 本書では10の授業実践および調査分析を掲載している。その中で2つの授業実践および構想を紹介したい。

 1つ目の「なぜ指導的地位の女性は増えないのか」(石本実践)では、一連の授業の最初に、このような行為は性別に基づく差別に当たるということを高校生に知らせるために用語を説明するというものであった。用語とは、ジェンダー規範と性別役割分担、マンスプレイニング(一方的な発言)、マンタラプション(発言の遮断)、ブロプロプリエイション(発言の横取り)、クリティカル・マスの5つである。近年、巷でよく使われるようになったこうした用語の意味に関して、使用理由や事例などを学校の授業で丁寧に学ぶことで、生徒が自分の身近な具体例にこれらの用語を当てはめて考える契機となる。また、SNSなどで生徒が個々に目にするであろう言葉を「皆できちんと学ぶ」という、学校での授業実践の利点を改めて感じさせるものであった。

 2つ目の「小学校社会科でジェンダーレス思考を育むにはどうすればいいか」(梅田実践)では、現在の小学校社会科の産業学習を踏まえて、あえて女性の労働する姿を提示するという授業構想を示している。現在、5年生の社会科では、農業や漁業、情報産業、自動車産業など日本の産業について学んでいる。しかし、米の生産者や漁師、車の開発者などで中心的に働くのはほとんどが男性で、こうした日本の基幹産業には女性の姿はほとんど見えない。たとえ女性がいたとしても男性の補助的な役割が多い。日本経済を支えているのは男性であるということを暗に知らせる「隠れたカリキュラム」ともなっている。授業構想では米づくりで中心的な役割をしている女性を探し出し、なぜ米づくりをするようになったのか、いかなる工夫をしているかなどを児童が考える。少数であっても確実に存在している女性を社会科の教員が積極的に探しているか、見つけようとしているか。身近な所でも私たち社会科教員の意識変革が必要なことを教えてくれる。

まずは多様な授業実践を積み重ねていく

 以上の授業実践および構想は本書の一部である。前書に引き続き、社会科でこうした女性やジェンダーに関する多様な授業実践を積み重ね、発信し続けていく。ジェンダー規範に息苦しさを覚え、それを変えたいと思った世代がこうした授業実践の提案を粘り強く続けていくことで、現実の社会でも自分らしく生きる女性の姿をさらに見ることができるのではないだろうか。

※社会科は、地理歴史科・公民科と現在の高校では分かれているが、1989年まではこれらの教科を合わせて高校社会科としていた。このことから、中学校社会科とともにここでは社会科と表記する。

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