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弓削尚子さん「はじめての西洋ジェンダー史」インタビュー 作られた「男女」を越えて

弓削尚子さん

 社会や文化が作り出す性別を意味するジェンダー。その視点から近世以降の西洋を捉え直す歴史学の歩みをつづった。法学部生向けの教養科目の授業が元になっている。「今の学生はジェンダーの知を渇望している。夫婦別姓や同性婚が認められないなんて時代遅れ、っていう声があがります」

 子どもの頃から、家父長的な日本の慣習や女性を家庭に縛る考え方が嫌だった。お茶の水女子大の史学科に進み、生活文化すべてを対象にするフランスのアナール学派など新しい歴史学に触れて感激し、女性史を志す。留学先のドイツで、西洋の男性を頂点とする啓蒙(けいもう)思想がにじむ文献を読み、「このテーマなら、非西洋の女性の立場から独自の研究ができる」とすとんと気持ちが定まった。

 本書は、国家を中心とした近代歴史学では見えなかった家族史から説き起こす。外で働く夫と家庭を守る妻、夫婦のもとで育てられる子どもからなる家族モデルは、ここ200年ほどの歴史であることを強調した。「日本にとっての文明化とは、西洋のジェンダー規範を取り入れていくことでもあったんです」

 女性史の章では、日本の高校生が使う『世界史用語集』にオランプ・ド・グージュの名が載ったのは、ごく最近だと指摘。フランス革命で出された男性主体の「人権宣言」を批判して「女権宣言」を発表した人物だ。近年関心が高まっている男性史にも章を割いたほか、軍事史や地球規模で歴史を見るグローバル・ヒストリーをジェンダーの視点から論じた点に本書の特長がある。

 「西洋の男性歴史家による歴史学が作り出してきた『無知』に挑むのが西洋ジェンダー史なのかなと思う。現代の『女らしさ』『男らしさ』にモヤモヤしている人にとって、乗り越えていくヒントになれば」(文・吉川一樹 写真・倉田貴志)=朝日新聞2022年1月29日掲載