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『カンボジアを知るための60章』第3版によせて

記事:明石書店

『カンボジアを知るための60章』第3版(明石書店)
『カンボジアを知るための60章』第3版(明石書店)

グローバルな国へと変貌したカンボジアを知る

 『カンボジアを知るための62章』第2版の発行から今日までにカンボジアは大きく変わった。

 今やカンボジアはグローバルな国である。コンビニやカフェ、レストラン街が併設された国際空港は活気に満ちている。カンボジアの国旗と花束とプラカードでミス・グランド・インターナショナルのカンボジア代表の帰国を待ち受ける若者が気勢を上げている。駐車場でずらりと並んだワゴン車の側では、十数人からなる、いくつものグループがピクニックのように食事をしている。韓国へ労働目的で旅立つ人を見送りに来た親類のグループである。カンボジア政府がウクライナの地雷除去に協力し、またウクライナの柔道選手がカンボジア国籍を取得し日本で稽古を重ねている一方で、ロシア人と結婚したカンボジア人はウクライナとの最前線に派遣される予定だと、カンボジアの親類に不安の電話をかけてくる。

 さらにカンボジアの人々にとって、日本は非常に身近な存在になってきている。プノンペンには日系の大型ショッピングモールが三号店までオープンした。日本に滞在するカンボジア人も増え、日本の生活の様子をSNSで発信するカンボジア人も少なくない。車やバイクのメーカー名はあいかわらず有名だが、日本で市販されている総合感冒薬や胃腸薬、目薬、湿布薬も認知度が高くなっている。「カワイイ」「カラアゲ」という単語も定着しつつある。日本人が想像する以上にカンボジアの人々は日本に関心を持っているのだ。

 本書は、こういったカンボジアの変化を紹介すべく、写真やグラフを含めて、大幅に改定した。カンボジアとの関わりも深く、新進気鋭の研究者である朝日由実子氏、佐伯風土氏、調邦行氏にもあらたに執筆陣に加わっていただいた。

 二〇二〇年三月、世界保健機関は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行を宣言した。その影響で、カンボジアもあらゆる点でこれまで以上に劇的な変化を遂げてきており、それは今後も続いていくだろう。その変化を読者のみなさまとともに見守っていきたい。

 折しも、二〇二三年は日本とカンボジアは外交関係樹立七〇周年を迎える。本書がカンボジアに興味を持つ読者にとって、カンボジアと親しくなるためのパートナーとなれば幸いである。

『カンボジアを知るための60章』目次

Ⅰ ことばを読む
第1章 カンボジア?カンプチア?クメール?――カンボジア語が話されている地域
第2章 奥が深い文法――ことばのしくみ
第3章 カタカナ表記が難しいわけ――音と文字
第4章 日本でよみがえった国語辞典――語彙と辞書
【コラム1】僧王チュオン・ナートと正書法
第5章 消滅の危機に瀕していることば、新しく生まれてくることば――ことばの変容
第6章 お付き合いの秘訣――名前と呼び方
第7章 小さくともダイヤモンドの輝き――ことわざとなぞなぞ
第8章 ウサギの裁判官――人間社会を描く民話の数々
【コラム2】おすすめ民話
第9章 天界の喜びから農民の苦しみまで――古典文学と伝統詩
【コラム3】国民的詩人クロム・ゴイ
【コラム4】おすすめ古典文学
第10章 小説の誕生、復興そして発展――近現代文学の諸相
【コラム5】おすすめ現代文学

Ⅱ 暮らしを知る
第11章 季節のリズム――自然環境
第12章 復活した信仰――内戦後の仏教の復興
【コラム6】寺院住まいの女性修行者
第13章 多様な民族・多様な文化――民族と宗教
第14章 寛容な社会の穏健な人々――カンボジアのイスラム教徒
第15章 厄除けと占い――日常に残る民間信仰
【コラム7】国難を予言するお化け
第16章 暦を彩る祭り――休日と年中行事
第17章 家族のつながり方――婚姻と世帯
【コラム8】暮らしのマナーのうつりかわり
第18章 人生における二大儀礼――婚礼と葬儀
第19章 布のマジック――衣服の変遷
第20章 自然をおいしく食べる――食生活の基本
【コラム9】食のことば
第21章 伝統的な家、近代的な家――変化する住宅事情
【コラム10】市民の乗り物

Ⅲ 歴史をたどる
第22章 カンボジアのはじまり――先史期からアンコール王朝の展開
第23章 祇園精舎への巡礼――アンコールのたどった歴史
【コラム11】西バライ遺跡にまつわる伝承
第24章 歴代の王の記録 王の年代記――ポスト・アンコール期
第25章 王宮に凧を落としたら――伝統法に見る法原理
第26章 インドシナの枠組みの中で――フランス統治期
【コラム12】現在を映し出すかのような昔の新聞『ナガラワッタ』
第27章 平和の島、東洋のパリ――独立から内戦へ
第28章 革命の理想と現実――内戦から和平へ
【コラム13】国歌と国旗の変遷
第29章 一四年ぶりの故郷――難民流出から本国帰還まで
第30章 混乱の時代を経て――強固な支配体制をかためる人民党
第31章 人物名、銅像、記念碑で彩られた首都プノンペン――公共空間を読み解く
【コラム14】象徴としての国王

Ⅳ 社会を考える
第32章 自由な政治を求めて――長期化するフン・セン政権
第33章 戦争犯罪を裁く――クメール・ルージュ裁判
【コラム15】ポル・ポト時代の経験談
第34章 米をつくる――変化の時を迎えている農業
第35章 メコン川の恵み――漁業を支える河川と湖
【コラム16】魚の利用法あれこれ
第36章 原産国 カンボジア――縫製と製靴
第37章 遺跡が直面する変化――観光によって変わる環境
第38章 よりわかりやすく速やかな行政サービス――納税者にも課税庁にも難しい税
第39章 経済発展の影で――社会問題の現状
第40章 アイデンティティーの模索――海外で暮らすカンボジア人たち
【コラム17】拡大する金融・証券セクター
第41章 住民が築く復興の礎――住民参加の地方行政
第42章 海外で働くカンボジア人労働者――「安全な出稼ぎ」への課題

Ⅴ 芸術を楽しむ
第43章 工夫をこらした楽の器――伝統楽器のつくり
第44章 社会を映し、社会に語る伝統歌謡――歌謡の維持と発展
第45章 みんなのうた――挑戦する若者たちの音楽
【コラム18】プノンペンの歌
第46章 踊りにこめた祈りと喜び――古典舞踊と民俗舞踊
【コラム19】ソンペア・クルーの儀式
第47章 神に捧げる芝居――伝統芸能・大衆芸能
第48章 カンボジアの微笑み――現代演劇の試み
第49章 人気はコメディとホラー――映画の歴史
第50章 遺跡、冒険、戦争そして混沌の国――日本人が描くフィクションの世界
第51章 歴史に翻弄された美術品――世界に散ったアンコールの至宝
【コラム20】国立博物館
第52章 天蓋から手ぬぐいまで――一枚布の織物文化
【コラム21】受け継がれる伝統的手工芸品

Ⅵ 明日へつなぐ
第53章 存在感を高める中国――安定と発展のために必要な国際関係
【コラム22】国境地帯の遺跡
第54章 世界遺産との共存――遺跡保護と地域住民
【コラム23】「カンボジアのルネサンス」に身を捧げたフランス人女性シュザンヌ・カルプレス
第55章 本は知性とセンスを表現できるアイテム――出版産業の発展
第56章 学校へ行こう――就学率と教育制度
【コラム24】日本語教育事情
第57章 オリンピック・スタジアムはスポーツのショーウィンドウ――市民生活とスポーツ文化
第58章 患者を救うという矜持――改善される医療体制
第59章 未来に向けての国づくりと日本――ドナーからの支援
第60章 開発課題を解決する一助に――進む日本企業の投資

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