プーチンの70年に及ぶ経歴、言動、個性、思考を徹底検証 フィリップ・ショート『プーチン』[後篇]
記事:白水社
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ロシア人だろうと外国人だろうと、20年以上のプーチン支配を経たロシアの状況を考えれば、ついこう思ってしまうはずだ。こうなるしかなかったのだろうか? 専制主義への流れは規定路線だったのだろうか? ロシアと西側との関係は、最初から相互の敵対と紛争へと劣化するのが必定だったのか、それともそれを避ける道があったのだろうか?
主要な役者たちが、別の行動さえとっていたら、事態がどう変わっただろうかとあれこれ思案する誘惑はなかなか抵抗しがたい。こうした反実仮想と最近では呼ばれるものは、くだらない妄想に学術的なもっともらしさを付け加えるための上辺にすぎず、本質的にはインチキでしかない。残念ながら、それはいろいろ騒ぎは引き起こしても、まともな知見をもたらすことはほとんどない。今日のロシアは、どうあがいても変わらず、その西側との関係もどうしようもない。他人がこうあってほしいと思っても、それはどうにもならない。
ありがちな見方として、特にアメリカで多いが、ヨーロッパでもかなりあるのは、「ロシアは共産主義者と変わらない残虐な独裁者に押さえつけられているのだ」というものだ。プーチン大統領時代の大半について、これは戯画でしかなかった。2021年の反対派弾圧と、何よりもウクライナ戦争以後には、それがかなり現実に近づきはした。だがそれでもロシアでの生活は、西側で描かれているほど陰気なものではない。
目を剝くような格差や縁故資本主義とすさまじい汚職にもかかわらず、生活水準は全体的に上がっている。身内びいきの資本主義と汚職は蔓延し、2008年不景気の後で経済成長は停滞している。それでも、プーチンの指導の下で経済規模は2倍になったし、全体としての国民は、過去のいつにも増してよい暮らしをしている。GDPに占める石油と天然ガスのシェアは激減した。農業は、1917年以来最悪な状態が続いているとミハイル・ゴルバチョフは述べたが、それがいまや大盛況となっている。ソヴィエト時代のロシアは食料輸入国だったが、いまや農業輸出は軍備販売よりも売上が大きい。
ウクライナ侵攻はそのすべてを危うくした。だが戦争と西側の経済制裁にもかかわらず。それでも、ロシア人の大半にとって生活の質は1990年代初頭とは比べものにならないし、まして共産主義時代からは大躍進を遂げている。ロシア軍の近代化は、プーチンの偉大な業績と謳われていたが、ふたを開けてみると政府の主張よりはるかにお粗末なものではあった。だがその手段の良し悪しはさておき、ロシアは国際問題における重要なアクターとして発言力を高め、無視できない存在となった。
問題は、ロシアが別の道をとれたか、ということではない。なぜロシア──そしてプーチン──が現在のような道をとり、ここから同国がどこに向かうか、ということだ。
【フィリップ・ショート『プーチン(下) テロから戦争の混迷まで』所収「あとがき」より】
【Explaining Putin: The Man Behind the War in Ukraine】