プーチンの70年に及ぶ経歴、言動、個性、思考を徹底検証 フィリップ・ショート『プーチン』[前篇]
記事:白水社
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ロシアにとって、アメリカとの関係は他のどんな国との関係よりも重要だ。1950年代以来のほとんどにおいて、アメリカはロシアを同様に見てきた。ただし現在では中国の台頭により、それが変わり始めてはいるが。両国は対極の存在であり、他のどんな国とも結ばないようなユニークな両面存在の半分ずつとなっている。どちらも自分が例外的存在だと考え、おかげでだれがクレムリンやホワイトハウスにいようとも、双方は相手を理解できず、ヘタをすると敵意が生まれる。
ヨーロッパはアメリカに追随するが、それほど極端には走らない。ヨーロッパはこの巨大な隣国に地理的にも近いし、共存方法を見つける必要性についても意識的だ。だがヨーロッパにおいてすら、プーチンは腐敗した、盗っ人国家的で専制主義的な国家の頭目と見られている。その国では、権力の座にある者は反対者を好き勝手に暗殺したり投獄したりできるし、基本的な自由は削がれ、メディアはクレムリンの走狗で、ごく少数の取り巻き億万長者が国の富を食い物にする一方で、その他の国民は生きるだけでも苦労するというわけだ。
確かにこの大部分は正しい。だがそれがすべてではない。またこれだけでは、プーチン政権の現状は説明できない。国の指導者は例外なく、自分たちの出身社会を反映している。関係諸国の国民にとって、それがいかに受け入れ難くとも、それは否定できない。プーチンはロシアにおいて異常な存在ではない。それはアメリカのドナルド・トランプ、イギリスのボリス・ジョンソン、フランスのエマニュエル・マクロンが各国で異常な存在ではないのと同様だ。プーチンは、ロシア人の相当部分が抱いている希望と恐怖、野心と失望、自負と不満を代表する存在で、だからこそプーチンは常に支持されているのだ。
なぜプーチンが彼のような行動をとるのか、なぜ彼の支配下でロシアが現在のような国になったのか、そして今後どうなるか──彼が指導者としてとどまる間、さらにはその後継者の下でどうなるか──を考えるためには、ステレオタイプを脇において、それぞれの証拠をありのままに、冷静かつ思いこみ抜きで検討しなければならない。[中略]クレムリンはそう簡単に秘密を明かしたりしない。大まかな概略は明らかだが、悪魔は細部に宿ると言われるとおり。細部は重要だし、細部が十分に変われば全体像も変わってくる。
ロシア政権の卑劣さの集約を期待して本書を読む読者は、以下の記述に失望するだろう。またプーチンの批判者が書くものはすべて、定義としてまちがっているはずだと信じている者たちも失望するはずだ。本書の狙いはプーチンを悪者に仕立てることではなく──そんなことならプーチン自身がだれよりもうまくやってくれる──その罪状をすべて免罪することでもない。彼の個性を探究し、何が彼を動かし、どうして現在のようなリーダーとなったのかを理解することだ。彼の人生とキャリア、その正直な発言とウソ、その成功と失敗、および彼が活動する文脈をめぐる事実を、できるだけ全面的かつ正確に確立し、それを十分な明確さをもって提示することで、読者が自分で情報に基づく判断を下せるようにすることだ。それだけでも、至難の業ではある。
【フィリップ・ショート『プーチン(上) 生誕から大統領就任まで』所収「プロローグ」より】
【Podcast: Who is Vladimir Putin? - conversation with Philip Short】