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カルト宗教、国商、フィクサー……この社会の裏側に巣食う「怪物」の正体

記事:平凡社

2014年、超電導リニアに試乗する葛西敬之・JR東海名誉会長(右)と安倍晋三首相(当時)(Photo: Koji Sasahara/Pool via Bloomberg)
2014年、超電導リニアに試乗する葛西敬之・JR東海名誉会長(右)と安倍晋三首相(当時)(Photo: Koji Sasahara/Pool via Bloomberg)

2023年6月15日刊、平凡社新書『日本の闇と怪物たち 黒幕、政商、フィクサー』(佐高信・森功著)
2023年6月15日刊、平凡社新書『日本の闇と怪物たち 黒幕、政商、フィクサー』(佐高信・森功著)

日本を分断した「国葬」と「統一教会」

 この十年来、日本を動かしてきたのは誰か――

 そう問われると真っ先に頭に浮かぶのは、安倍晋三や菅義偉かもしれない。二〇一二年十二月の第二次安倍政権誕生からおよそ十一年が経過した。この間、菅が安倍から政権のバトンを受け取り、さらに岸田文雄内閣が生まれた。第二次安倍政権発足後に外相を務め、自民党政調会長を経て日本政府のトップにのぼり詰めた岸田は、その一方で百人の国会議員を抱える自民党第一派閥の安倍派に遠慮せざるを得ない。安倍を支えてきた保守・タカ派勢力に忖度する首相のその姿は、ひ弱なリーダーとしか国民の目に映らず、内閣支持率も次第に下がっていった。

 そんな岸田にとって、大きな転機が訪れた。二〇二一年七月の安倍暗殺事件である。

 岸田はいち早く閣議で安倍の国葬を決め、菅と麻生太郎に友人代表の弔辞を頼んだ。それもまた、いつもの保守派に対する気遣いとしか思えなかった。

 ところが、岸田のこの国葬判断が、日本の世論を分断する。もとより国葬を歓迎したのは自民党保守派だ。しかしその実、「吉田茂首相以来の国葬に値するのか」「国葬の法的根拠が見当たらない」という批判があがり、むしろ国葬反対の声が大勢を占めていった。

 そして統一教会問題が国葬反対世論の火に油を注いだ。手製の粗末な銃で安倍を葬った山上徹也が、統一教会に家庭を破壊された被害者だったことから同情が沸き起こり、一万を超える減刑嘆願署名が寄せられた。殺人犯に対する異様な事態といえる。そのうえ長年、安倍派を中心とした自民党議員が統一教会の選挙応援を受けてきた事実が明るみに出て、被害者救済の新法まで成立した。

 それでいて、岩盤支持者たちの安倍晋三に対する愛郷の念も衰えない。本人へのインタビュー形式で構成された『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)がたちまちベストセラーになったのは、とりもなおさず安倍人気のあらわれだろう。が、肝心の本の中身は都合の悪い質問には答えをはぐらかしている。インタビュアーも、それ以上突っ込まない。本を読んで、まるで自民党議員の国会質問に答えているかのような読後感に襲われたのは私だけではないだろう。

 ここまで無邪気に一人の国会議員を信じ、愛してやまない。これもまた、魔訶不思議な現象ではないだろうか。

最後のフィクサー・葛西敬之

 安倍にとって最も強力な支持者の一人が、元JR東海名誉会長の葛西敬之である。本書に先んじて刊行した『国商』(講談社)では、「最後のフィクサー 葛西敬之」という副題を付けた。葛西は、中曽根康弘行政改革の黒幕として国政にかかわってきた元関東軍参謀の瀬島龍三に師事し、かつて「国鉄改革三人組」と呼ばれた。その葛西が自らのブレーンである高級官僚たちを送り込んでつくったのが安倍政権だったのである。最後のフィクサーという副題は決して大袈裟ではない。安倍や菅のみならず、現在の岸田にいたる今日まで、政権に影響力を残している。この先、出てこないであろうスケールの大きな黒幕だ。

 光り輝いて見えた安倍に対し、政治の表舞台に登場しない葛西は、あくまで影の存在といえる。両者の関係は表と裏と言い換えてもいい。取材をしていくと、この十年来、日本を本当に動かしてきたのは、この最後のフィクサーだったと痛感した。

 葛西ほどのスケールではないにしろ、日本社会は文字通り表と裏が渾然一体となって動いてきたといっても過言ではない。「闇の帝王」と異名をとり、イトマン事件を引き起こした許永中は、暴力団や裏社会ばかりではなく、名だたる政財官の実力者とも親しく交わり、自らのビジネスを実現しようと走り回った。イトマン事件では亀井静香や竹下登、中尾栄一、住友銀行の河村良彦や東邦生命の太田清蔵との交友がクローズアップされたが、元日大理事長の田中英壽との相撲界を巡る親交も、関係者のあいだでは知られたところだ。

 また、日本の高度経済成長を牽引した田中角栄と中曽根康弘は、当選同期で同じ年だった。戦後最大の政界疑獄と呼ばれたロッキード事件が田中の代名詞のように語られるが、実は中曽根も日米の政界汚職に深くかかわっている。そしてそこにも黒幕が見え隠れした。事件で一敗地にまみれた田中に対し、リチャード・ニクソン政権の大統領補佐官で、ヘンリー・キッシンジャーのカウンターパートナーだった中曽根は、自らの摘発を免れた。日米の防衛利権で名前が取り沙汰されたのが、中曽根のブレーンだった伊藤忠商事の元会長瀬島にほかならない。その瀬島がのちに中曽根行革を担うことになる。一方、田中の盟友だった国際興業社主の小佐野賢治は田中ととともにロッキード事件で逮捕された。強力な影の存在が田中と中曽根という二人の首相を支えてきたのは間違いないが、その明暗ははっきり分かれている。

規制緩和で生まれた新たな利権

 中曽根行革以降、日本には市場開放という名の新自由主義経済が上陸した。わけても二〇〇〇年前後の小泉純一郎内閣では、慶大教授だった竹中平蔵が政権のブレーンとして、市場開放の旗を振った。竹中自身は影の黒幕というイメージはないかもしれない。むしろ自ら率先して新自由主義政策を訴え、小泉政権では総務大臣になった。

 「従来の役所の規制を取っ払い、公共事業を自由化して民間開放すれば効率が上がる」

 そう唱えてきた。その規制緩和路線が安倍、菅政権にそっくり引き継がれ現在にいたっているといっていい。反面、そこには規制緩和された事業のビジネスチャンスという新たな利権が生まれた。労働の自由化を謳った人材ビジネスは広がり、派遣業者のパソナが利益を得ていく。さすがに今は退いたが、竹中はパソナの会長を務めてきた。

 安倍政権では、国家戦略特区を使った加計学園の獣医学部新設が安倍の友達に対する依怙贔屓ではないか、と批判があった。その舞台裏では、官邸官僚たちが新たな制度づくりを担ってきた。

 表裏一体となって動く日本社会の構図は今も昔も変わらない。本書が日頃なかなか光の届かない闇の怪物たちに気付くヒントになれば幸いである。

『日本の闇と怪物たち 黒幕、政商、フィクサー』目次

はじめに 佐高信
序章 統一教会と創価学会
第1章 「闇社会の帝王」許永中
第2章 国家を支配する「フィクサー」葛西敬之
第3章 中曽根康弘と田中角栄の宿縁
第4章 竹中平蔵と「総利権化」の構造
おわりに 森功

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