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藤井風「死ぬのがいいわ」の日本的な情緒 木石岳『歌詞のサウンドテクスチャー』より

記事:白水社

YOASOBI、米津玄師、Ado、藤井風、NewJeans……新時代のポップスがもっと楽しめる「耳寄りな学問」にようこそ! 木石岳著『歌詞のサウンドテクスチャー うたをめぐる音声詞学論考』(白水社刊)は、オノマトペ、音象徴、ポケモン言語学など最新の学術研究もふまえ、アーティストたちの魔法のような「作詞術」についてわかりやすく解説する。「音声詞学」の入門書。
YOASOBI、米津玄師、Ado、藤井風、NewJeans……新時代のポップスがもっと楽しめる「耳寄りな学問」にようこそ! 木石岳著『歌詞のサウンドテクスチャー うたをめぐる音声詞学論考』(白水社刊)は、オノマトペ、音象徴、ポケモン言語学など最新の学術研究もふまえ、アーティストたちの魔法のような「作詞術」についてわかりやすく解説する。「音声詞学」の入門書。

【藤井風「死ぬのがいいわ」:Spotify「海外で最も再生された日本国内アーティストの楽曲」において第1位を獲得し、4億回再生を突破! YOASOBI「夜に駆ける」の4.8億回に迫る再生回数を更新中。世界の第1位はザ・ウィークエンド「ブラインディング・ライツ」の37億回(2023年7月現在)】

 

【藤井風「死ぬのがいいわ」 Official Music Video】

 

海外で最も再生された
アジアで最も「良い曲」

 この曲はEメジャー・キーのペンタトニックで歌われており、途中で同主短調のEマイナーへと転調するが、スケールも同じくEマイナーペンタトニックで歌われる。歌詞も一部英語の部分以外は一貫してモーラ言語で歌われており、モーラとペンタトニックの結びつきによって日本的情緒を強めている。もちろん歌詞の言語的な意味内容もそれを補強している。以下は冒頭の歌詞を引用したもの。

指切りげんまん ホラでも吹いたら
針でもなんでも飲ませていただき
Monday
It doesn’t matter if it’s Sunday

鏡よ鏡よ この世で一番
変わることのない 愛をくれるのは
だれ
No need to ask cause it’s my darling

 歌詞の言語的な意味内容は、約束をするときにおなじみの童歌「指切りげんまん〜」からの引喩に始まり、続くパートでは白雪姫を彷彿とさせる。これらは徐々に近松門左衛門の遊女心中もののような重みを帯びてくる〔▶▶|註記〕が、いずれにしてもモーラ言語+ペンタトニックの結びつきによって古き良き童歌のイメージは強化される。ちなみに元の「指切りげんまん」もペンタトニックで歌われる。

 

【Spotifyが提唱する音楽の新ジャンル「ガチャポップ」のプレイリスト:藤井風「まつり」「死ぬのがいいわ」「ガーデン」のほか、YOASOBI、米津玄帥、Ado、あいみょん、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅ、BABYMETAL……『歌詞のサウンドテクスチャー』で論考するアーティストたちがリストアップされている】

 

 この曲は終始モーラ言語で歌われるが、途中で登場する八章節のスキャットで例外的に二重母音や撥音の音節化が頻発する。

 譜例はその旋律を示したものだが、ここではじめてペンタトニックにはないA音やD#音が登場する。さらにG#やC#の音がところどころ音が低くなっている(譜例ではナチュラル記号で示した)。これらもブルー・ノートである。歌詞は表記していないが、ジャズのスキャットの雰囲気で、言語リズムは音節となっている。

木石岳『歌詞のサウンドテクスチャー うたをめぐる音声詞学論考』(白水社)P200–201より
木石岳『歌詞のサウンドテクスチャー うたをめぐる音声詞学論考』(白水社)P200–201より

 言語リズムとスケールの関係はさまざまに組み合わさって楽曲の全体的なイメージ作りに貢献する。

 きゃりーぱみゅぱみゅ「にんじゃりばんばん」はちょうど「まつり」とは逆の構造になっている。この曲ではペンタトニックスケールのときには音節言語になり、そうでないときにはモーラ言語となる。「まつり」と同じく日本的な響きを狙って作られた曲で、「にんじゃ」というワードや時代劇風の効果音、伝統的な邦楽の楽器が使われているにもかかわらず、言語的な響きにおいてはそのイメージとは裏腹に音節言語をペンタトニックに結びつけている。

木石岳『歌詞のサウンドテクスチャー うたをめぐる音声詞学論考』(白水社)P202–203より
木石岳『歌詞のサウンドテクスチャー うたをめぐる音声詞学論考』(白水社)P202–203より

 このように楽曲のなかのさまざまな要素が一丸となって曲の雰囲気が作り上げられてゆくが、言語リズムもそのひとつとして十分に機能していることを忘れてはならない。

 

〔▶▶|註記〕「指切りげんまん」は遊郭での風習が起源だといわれている。「切指は、遣手や新造、仲間の遊女などに手伝ってもらうこともあったが、多くは客の前で行った。たいていの場合は、いざ指を切ろうとすると、客のほうが「心底見えた」と言って、切指をやめさせたという。遊女のなかには、近くの小塚原刑場の関係者に頼んで死人の指を調達したり、蠟細工でつくられた指を小間物屋から購入したりする者もいたという」。参照:安藤優一郎 監修『江戸の色町 遊女と吉原の歴史──江戸文化から見た吉原と遊女の生活』(カンゼン、2016年)。

 

【木石岳『歌詞のサウンドテクスチャー うたをめぐる音声詞学論考』(白水社)所収「第3章 音響サブリミナル ペンタトニックとブルーノートの言語──藤井風のまつり」より】

 

2023年7月29日、藤井風初の海外公演「Fujii Kaze and the piano Asia Tour」の掉尾を飾る香港公演オープニングと同日、木石岳『歌詞のサウンドテクスチャー』×川原繁人『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか?』W刊行記念トークイベント「PONPONPONとパピコ〜歌詞とお菓子の言語学がオンライン開催されます。

木石岳『歌詞のサウンドテクスチャー うたをめぐる音声詞学論考』(白水社)目次 宇多田ヒカルや椎名林檎をはじめ、きゃりーぱみゅぱみゅ、King Gnu、KOHH、藤井風まで、その歌詞の魅力も譜例とともに分析。
木石岳『歌詞のサウンドテクスチャー うたをめぐる音声詞学論考』(白水社)目次 宇多田ヒカルや椎名林檎をはじめ、きゃりーぱみゅぱみゅ、King Gnu、KOHH、藤井風まで、その歌詞の魅力も譜例とともに分析。

【著者動画:舐達麻から藤井風へ。スケールが導く歌詞の言語リズム(早稲田大学)】

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