1. HOME
  2. インタビュー
  3. 「音楽×文学」特集
  4. YOASOBI(ヨアソビ)が「たぶん」原作者と初対面 小説と音楽、行き来して作品が大きくなっていく

YOASOBI(ヨアソビ)が「たぶん」原作者と初対面 小説と音楽、行き来して作品が大きくなっていく

文:小沼理、写真:北原千恵美

小説を音楽にするYOASOBI

――まずYOASOBIのお二人にうかがいますが、「小説を原作に音楽を作り出す」というコンセプトのユニットはどのように誕生したのでしょう?

Ayase:「monogatary.com」という小説投稿サイトがあって、その運営スタッフの方から「小説を音楽にするユニットがあったら面白いんじゃないか」とお話をいただいたのがはじまりです。僕はボーカロイドプロデューサー(ボカロP)としても活動しているのですが、2019年にアップした「ラストリゾート」という曲がスタッフの耳に留まり、声をかけていただきました。

 小説を音楽にすると聞いても、最初は「アニメのオープニングやドラマのタイアップを書く感じなのかな?」と、ざっくりとしたイメージしかできていなくて。でも、自分とは違う人が作った作品を楽曲に落とし込むのは面白そうだし、作曲者としての幅も広がりそうだなと思って挑戦してみることにしました。そしてボーカリストを探す中で、声をかけたのがikuraです。

ikura:私はもともとシンガー・ソングライターとして自分で曲を作って歌っていたので、YOASOBIはボーカルのみでの参加ということで最初は葛藤がありました。でも、Ayaseさんの楽曲を聴かせてもらって、この人とならぜひやりたいと思うようになりましたね。

 当時は小説にはまっていて、タイミングが良かったこともあります。高校生くらいから小説をよく読むようになって、好きなのは恋愛小説。有川浩さんと宮下奈都さんが好きで、小学生の頃に読んだ森絵都さんの『カラフル』も思い出の一冊です。

――YOASOBIが開催した新曲の原作を募集する「夜遊びコンテスト vol.1」で大賞に輝いた小説「たぶん」を執筆したのがしなのさんです。しなのさんはもともとYOASOBIのことを知っていたのでしょうか?

しなの:実は今回のコンテストではじめて存在を知ったんです。昔から小説や物語を書いていましたが、児童文学や子ども向けの作品が中心でした。monogatary.comをはじめたのは、aiboとのコラボで優秀作品が絵本化されるコンテストに応募しようと思ったことがきっかけ。その中で「夜遊びコンテスト vol.1」を知り、「私も書きたい!」と強く思いました。

「たぶん」原作者のしなのさん

音楽と小説、それぞれの味わい

――9月18日にはYOASOBIの楽曲の原作となった小説を収録した『夜に駆ける YOASOBI小説集』が発売されます。一冊の本として書店に並ぶことについて、YOASOBIのお二人はどう感じていますか?

Ayase:「やったぜ!」って感じです。たとえば、YOASOBIのCDの特典として原作小説をくっつけて販売するのがよくあるやり方だと思うんです。原作でなくても、ストーリーテキストとして小説をCDに付属して作品を発表しているアーティストはいますよね。

 YOASOBIでは原作は原作小説としてリスペクトしているし、音楽と切り離したかたちでも味わってほしいという思いがあるので、小説集としての発売は理想的。YOASOBIを知らない人が手にとって、これが新たな入り口になったらうれしいですね。

ikura:本屋さんには普段からよく行くので、私がいつも通っているお店にこの本が並ぶんだと思うとうれしくなります。ただ、『YOASOBI小説集』と名付けてはいますが、内容は原作者の皆さんが書いたもの。本屋さんに自分たちの名前が入った作品が並ぶという夢を叶えさせてもらっているんだなあと思います。

 私と同じ20歳くらいの世代だと、小説はあまり読まないという子も多いです。同年代の人たちが小説に興味を持つきっかけになったらうれしいですね。

Ayase:実は僕自身も小説よりもマンガやアニメが好きで、何かを読もうとするとマンガに手が伸びがち。たとえば、影響を受けた石田スイ先生の『東京喰種トーキョーグール』とか。

でも、YOASOBIの原作小説は難しい言葉を使っていなかったり、短めのお話だったりと読みやすいものが多いです。その点でも、この本は小説の面白さを知る入り口になると思います。

――しなのさんは自分の小説が本になることをどう感じていますか。

しなの:書いた時は「YOASOBIの曲になるといいなあ」という気持ちだけだったので、それが本にもなるなんて、棚からぼた餅って感じです(笑)。

 他の作家さんの作品もすごく面白いです。星野舞夜さんの「タナトスの誘惑/夜に溶ける」といしき蒼太さんの「夢の雫と星の花」は、私にYOASOBI作品の楽しみ方を教えてくれた小説。水上下波さんの「世界の終わりと、さよならのうた」は私と同じ「埃っぽい朝のこと」というテーマでコンテストの大賞を受賞した作品ですが、同じお題なのにまったく解釈が違っていて、大きな世界観で描かれていて面白かったです。

――死神や世界の終わりといったモチーフが登場する作品から、「たぶん」のようにリアルな恋愛小説まで幅広く収録されています。1〜4章の並びには何かコンセプトがあるのでしょうか?

Ayase:この4章で終わりというわけでもないので、具体的なコンセプトがあるわけではありません。「○章」という表現は音楽を聴くことが物語を読み進めていくように感じられるギミックの一つですね。MVでは右上に数字が記され、曲と同時に数が増えていくのですが、これもページ数をイメージしたギミック。小説が原作だからこそできる表現として取り入れています。

YOASOBI「夜に駆ける」 Official Music Video

「たぶん」を読んで、音楽があふれた

――実はYOASOBIのお二人としなのさんが顔を合わせるのは今日が初めてだそうですね。

Ayase:そうですね。しなのさんに限らず、小説の原作者の方とこうしてお話しするのは初めてです。

――小説「たぶん」は同棲を解消したカップルの一方に訪れた、ある朝の出来事を描いた物語です。この作品を読んで、YOASOBIの二人はどんな風に感じましたか?

ikura:恋愛のディープな部分ではなくて、お別れ前のからっとした空気感を描いていて、すごく素敵な作品だと思いました。お話のほとんどの場面で主人公は目を閉じていて、物音だけで想像しているのも面白かったです。

Ayase:まず「たぶん」というタイトルが素敵ですよね。シンプルな感想ですが、本当にすごく好きな作品です。楽曲の原作になった小説はどれも好きだけど、「たぶん」には書かれている物語が自分の経験とリンクする部分もあって、すぐに世界観に入り込めました。

 はじめて読んだ時の衝撃は今でも思い出せます。明け方にスタッフさんからURLが送られてきていて、起きてすぐ、ちょっと寝ぼけた頭で読み始めたんですね。そうしたら世界観にぐいぐい引き込まれて、自分の中で感情がどんどん広がっていって。布団から飛び出して顔も洗わず、夢中で曲を作り上げました。

 当時はいろいろと制作が立て込んでいて、音楽を作るのに「しんどい」気持ちが「楽しい」気持ちを上回り始めていた頃。そんな中、「たぶん」は最初から最後まで一気にできたんです。「やっぱり音楽って楽しいな」って再確認できる、自信を取り戻すきっかけになりました。しなのさんに質問なんですが、「たぶん」は完全なフィクションなんですか?

しなの:描かれている感情には自分の体験が入っているかもしれませんが、シチュエーションはほぼ完全にフィクションですね。今回、コンテストのお題が「埃っぽい朝のこと」で、作中のワンシーンだけじゃなくて全体を通してこのお題を活かしたいと思って書くうちに、こうした作品になりました。

ikura:空気感までしっかり想像できる小説でしたが、想像の中で作っていったんですね。すごい。

「答えが出ない」面白さ

――しなのさんは「たぶん」を書く時、特に意識したことはありますか?

しなの:読んで、聞いて、MVを見ても答えが出ない部分が残っていると面白いんじゃないかなと思っていました。たとえば「たぶん」では主人公と相手の性別を限定しないように書いています。

 コンテストに応募する前、公開されていた「夜に駆ける」と「あの夢をなぞって」の2曲とその原作小説に触れて、小説と音楽の世界観を味わいながら「なるほど、そういうことか!」となるのがYOASOBIの魅力だと感じました。その上で、私が書くならその体験が作品だけで完結せずに、monogatary.comやYouTubeのコメント欄で確定しない部分をみんなで共有できると面白いのかな、なんて思っていましたね。

――小説の「たぶん」を原作に生まれたのが、同名の楽曲「たぶん」です。YOASOBIのお二人は小説をどんな風に読み解いて、音楽に落とし込んで行ったのでしょうか。

Ayase:読みながら、別れの朝のような青っぽい色が浮かびました。あと、一緒に暮らしていたカップルが別れてしまった時の、気持ちの浮遊感。これらを音で表現したいと思って、自分の中でマッチする楽器や音色を探していきました。

 YOASOBIの曲を作るときにいつも考えているのは、ただ小説を説明するだけの楽曲にならないようにすること。小説を読むことで音楽に深みが出たり、音楽を聴くことで小説の世界観が鮮やかになったり、行き来することでわかる楽しみを作り出したいんです。それぞれがひとつの作品として成り立っていて、それが合体することでどんどん大きな作品になっていくイメージ。いち読者としての僕の主観や主人公の感情も入れながら、小説と同じテンポで進んでいく音作りを意識しています。

ikura:YOASOBIの曲を歌う時は、主人公として歌うことをモットーにしていて。主人公の気持ちだったらここはどう歌うのがいいか、どの言葉にアクセントを置けば感情が乗るか、一言一言考えています。毎回歌詞カードに自分なりの解釈をびっしり書いてレコーディングしていますね。

 「たぶん」はつぶやくように歌いはじめるのが、主人公の心情に合うんじゃないかと思いました。歌い出しの「一人で迎えた朝に」って自分の状況を客観的に見ているところや、Bメロの「悪いのは誰だ」のセリフっぽい歌詞のところなどは、特に淡々とつぶやくように歌っていますね。

――しなのさんははじめて「たぶん」を聞いた時、どう感じましたか?

しなの:耳に届く音の一つ一つが心地よくて、すっと染み込むようでした。私が小説に込めた空気感が、音と歌詞で表現されていて……その時の感情ってなかなか言葉では言い表しがたいのですが、今まで経験したことのないものでしたね。

 最初は音と歌詞が印象に残ったのですが、もう一度続けて聴くと今度はikuraさんの歌声に耳を奪われて。最初に聴いた時、音楽に浸れたのはikuraさんの表現の力だなあと気づきました。

映画化で新たな広がりも

――「たぶん」はさらに、映画での実写化も決まっていますね。

ikura:楽曲のMVはこれまでずっとアニメーションで発表しているので、また違う広がりを見せるんじゃないかとワクワクしています。

しなの:そうですね。私の小説はあくまで原案で、映画ではそれとは違う物語も描かれると思っています。小説「たぶん」の前後を私が書いたら読み手の自由度を下げてしまうけど、他の方が表現することでより自由に広がって、作品に新たな広がりが生まれる。どんな内容になるのか、今から楽しみです。

――2作目の「あの夢をなぞって」はコミカライズされていましたし、小説と音楽に留まらず様々なメディアミックスが展開されています。

Ayase:原作小説があって、音楽とMVがあって、そして実写。どんどん広がっていて面白いなと思う一方で、こうしたメディアミックスって実は今までもずっとやってきたことなんですよね。小説を原作にドラマを作る時は脚本を用意するし、主題歌を作る時は原作や脚本を読んでイメージしながら作るし。

 ただ、YOASOBIではその一つひとつに注目して、広がっていく様子をわかりやすく発信できていると思います。音楽を中心に、小説、映像、実写のショートストーリーなど様々なコンテンツの魅力を再確認するきっかけになっている手応えもあります。

 「音楽っていろんなことと結びつけられるんだよ、そうして大きな世界観を描けるんだよ」という楽しさを提示できていると感じますね。

しなの:楽曲の「たぶん」は私の小説を原作に作られましたが、私としては「私のレシピで料理が再現された」というより、「私の小説を食材に、料理人のYOASOBIが新しい料理を考案して作ってくれた」という感覚でした。私には決してその料理を作ることができないけれど、料理の味に感激した人が「この素材ってどうなっているの?」と小説も読もうとしてくれるイメージです。

 そんな風に作品を行き来したり、読み手やリスナーが自分たちで解釈しながらYOASOBIの世界が広がっていくのが、これからも楽しみです。

ikura:素敵な表現をありがとうございます。音楽を聴いた人が小説を読むことでさらに世界観に入り込んで、そこから何かを発見できる。そうしてYOASOBIの世界が広がっていくために、原作の小説はすごく大切な存在だと改めて感じますね。