日本初の寄付研究に関する概説書――坂本治也編『日本の寄付を科学する―利他のアカデミア入門』
記事:明石書店
記事:明石書店
唐突ですが、あなたは最近いつ頃寄付をしましたか?「いやいや、寄付なんて記憶の限り、この1年まったくしてないなぁ、、、」という方も結構おられるのではないかと思います。
イギリスのNPOであるチャリティズエイド財団が発表している「世界人助け指数(world giving index)」2022年版によると、過去1ヵ月の間に慈善団体(charity)に金銭寄付をした人の割合は、日本では18%です。過去1ヵ月以内に寄付をした人は明らかに少数派です。もしあなたが過去1ヵ月以内に寄付をしていなくても、日本の中ではそれは普通のことだといえるでしょう。
しかし、この数字、調査対象の世界119ヵ国でみると、平均は35%になっています。最も高い国であるインドネシアでは84%、寄付大国として知られるアメリカでは61%です。日本の順位は119ヵ国中103位であり、残念ながら日本は寄付が活発な国とはいえないようです。
「寄付などしないのが、日本の文化だ」という考え方にも一理あるかもしれません。しかし、貧困、災害、過疎化、差別、不十分な教育、孤立などの様々な社会課題を解決していくためには、民間からの寄付の拡充が必須となっています。というのも、本来は社会課題を解決するために存在している国や自治体には、お金の面でも人員の面でも現状では十分な資源がない状態だからです。
岸田文雄内閣の下で進められている「新しい資本主義」においても、「民間も公的役割を担う社会を実現」という政策理念が重要な1つの柱となっています。同様の考え方は、経済同友会が提言する新しい経済社会モデルである「共助資本主義」においても見られます。寄付を拡充していくことは、すでに現在の日本において喫緊の政策課題となっているのです。
また、寄付には単に「困っている人を助けるための施し」という側面だけでなく、「社会を作るための投資」という側面があります。たとえば、奈良の大仏、仙台の伊達政宗像、現在の大阪城天守閣は、人々から集まった寄付によって建てられました。最近では、ガンバ大阪が本拠地とするサッカー専用スタジアムのパナソニックスタジアム吹田が140億円の寄付金を集めて建てられたことが有名です。他にも、様々な芸術文化施設の建設・維持や大学における研究開発などに寄付金が活用されています。明治時代に各地でつくられた小学校の多くも住民から集まった寄付によってできた、といわれています。
普段はあまり意識されませんが、私たちの社会は、政治家や役人だけによってつくられたわけではなく、民間の普通の人々の寄付によってつくられてきた部分が案外大きいのです。「望ましい社会をつくる」という意味においても、寄付の拡充は日本のより良い未来にとって必要なことなのです。
近年、寄付の重要性に気づいた人たちが、多方面で先駆的な取り組みを始めています。たとえば、ファンドレイザーと呼ばれる「寄付集めのプロ」がNPOや大学などで活躍するようになっています。日本の寄付文化をより豊かなものに変え、寄付の活性化を広範囲に促すために、様々な実践者たちが日々奮闘しています。
他方、日本の学術界においては、寄付に関する調査研究は依然として未成熟な状態にあります。もちろん、個々の研究者によって寄付に関する重要な研究が散発的になされてはいますが、その成果が集約されるかたちで広く一般に知られるところにはなっていません。また、大学などの教育機関においても、寄付研究が体系的に講じられる機会もほとんどありません。
寄付に関する学術的な知見が十分世間で共有されていないことが、「寄付を集める団体って、なんかうさん臭いし、私腹を肥やしているんじゃないの?」「寄付を積極的にする人って、結局は偽善や売名行為でやってるんじゃないの?」といった寄付に対するネガティブ・イメージにつながっているようにも思われます。
そこで本書では、日本寄付財団寄付研究センターを拠点に進められてきた学術研究の知見を整理し、重要な寄付関連研究の成果を一般読者にわかりやすくコンパクトに提示することをねらいとしました。
私たち日本人は現在どれくらい寄付を行っているのか。他国の人々と比べて、日本人の寄付はどのように評価することができるのか。そもそも、なぜ私たちは寄付をするのか。どういった要因が寄付行動を説明するのか。どうすればNPOや慈善団体はもっと寄付を集められるのか。なぜ私たちの社会には寄付が必要なのか。こうした寄付に関する謎や疑問を考えていく際に、本書の内容はきっと役立つことでしょう。
また本書では、狭義の寄付についての研究を扱うだけではなく、寄付と密接に関連するボランティア活動、社会貢献意識、利他行動、ソーシャル・マーケティング、応援消費などについての研究も扱っています。
人間は基本的には利己的な生き物ですが、時として利他的に振る舞うこともあります。なぜ人間は、寄付やボランティアのような、自分以外の他者の利益を増進させる行動をするのか。本書は利他行動全般を社会科学的に考えていく際の入門書としても広く活用してもらえると思います。
本書を手に取り、一緒に寄付について考えてみませんか。案外知らないことが多くて、新たな発見がたくさんあって、きっと楽しいですよ!