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歴史と伝統に培われた「知の宝庫」はいま――世界の大学図書館をめぐる旅への誘い

記事:明石書店

〈図1〉オックスフォード大学のボドリアン図書館
Diliff/Wikimedia Commons, CC-BY-SA 3.0
https://en.wikipedia.org/wiki/File:Duke_Humfrey%27s_Library_Interior_6,_Bodleian_Library,_Oxford,_UK_-_Diliff.jpg
〈図1〉オックスフォード大学のボドリアン図書館 Diliff/Wikimedia Commons, CC-BY-SA 3.0 https://en.wikipedia.org/wiki/File:Duke_Humfrey%27s_Library_Interior_6,_Bodleian_Library,_Oxford,_UK_-_Diliff.jpg

大学図書館の「宇宙」

 革表紙の古くて分厚い書物を納めた、これまた重厚な書棚の立ち並ぶ、まるで時間が止まっているような特別な空間〈図1〉。人智を超えた何かが潜んでいそうな神秘的なまでの雰囲気は、まさにあのホグワーツ魔法魔術学校そのもの。映画《ハリー・ポッター》シリーズをご覧になった方なら、実際にいくつかのシーンでこの光景を目にしているはずです。

 ここは13世紀にさかのぼる歴史を誇るオックスフォード大学の、100以上もある図書館のなかでも特別な存在である、ボドリアン図書館のデューク・ハンフリー図書室。400年以上も前に創設されて以来、この大学の教育の中核であるチュートリアル(個別指導)と呼ばれる制度による学習を支えてきました。2019年現在で蔵書冊数は約1300万冊、電子ジャーナルなども8万点を超え、400人以上の職員によって運営されています。

 このオックスフォード大学に限らず、世界各国の著名な大学にはそれぞれ特色のある図書館があって、研究者や学生の支援を行い、独自の専門的な学術研究と教育サービスの要としての役割を果たしてきました。大規模な大学であれば、学部ごとに専門図書館が設置されていて、多様な学問分野に必要な書籍や知識が集中的に蓄積され、保存されてきています。ハーバード大学ワイドナー記念図書館の司書マシュー・バトルズは、『図書館の興亡』という本の冒頭で次のように書いています。

1冊の本との心温まるめぐり合いを夢見て図書館にやってきた読者は、おびただしい数の本、頁をめくったり表紙がこすれ合ったりする音、大量の本が集められている場所独特のつんと鼻を突く匂いなど、言語が物体化された現実に気づかされて愕然とする。もちろん、本が物であるという実感は、大きな図書館であればいっそう強い。そこでは堆積された書物の言葉の重みがそれなりの引力を発揮しているように感じられる。

 図書館は「単なる骨董品の陳列棚」などではありません。何十万冊、何百万冊もの蔵書が配架され、誰かの手にとられるのを静かに待っている図書館には、何か特別のオーラがある1つの世界、1つの宇宙なのです。

開かれつつある大学図書館

 このように各時代の貴重な知的資産を収集した知の宝庫である大学図書館が、近年、公共図書館のように市民も利用できるようになりつつあります。インターネットを多くの人が利用できるようになってきたこの時代、世界の大学図書館の膨大な資料が多くの人々に公開されるようになってきているのです。

 たとえばフランスのソルボンヌ大学では、大学の戦略としてオープン・サイエンスに積極的に取り組んでいて、研究者や大学院生には研究成果を多くの人に公開し、無料でアクセスできるようにしていくことを奨励しています。大学図書館では科学的遺産への無料アクセスを実現するために、ソルボナムというデジタル・ライブラリーを公開しています〈図2〉。ムセリアと呼ばれる化石標本のデジタル資料や病理解剖学コレクション、古生物学と古植物学、岩石学、金属学と鉱石のコレクションから、多くの資料のデジタル化が進んでいて、すでに1,800点の資料、合計417,000点の画像、多様なメディアの1,800を超えるドキュメント(印刷物、原稿など)がオンラインで利用できるようになっています。大学は、すべての学部のすべての図書館の資料やアーカイブ、科学コレクションのデジタル化を進めており、コンテンツは定期的に投稿され、年間5万ビューの増加を見込んでいます。

〈図2〉ソルボナムのトップページ
https://patrimoine.sorbonne-universite.fr(2024年4月24日アクセス)
〈図2〉ソルボナムのトップページ https://patrimoine.sorbonne-universite.fr(2024年4月24日アクセス)

歴史と伝統にふれ、新しいビジョンを旅へ

 世界の大学とその図書館は、培ってきたその歴史と伝統を守りつつ、コロナ禍やデジタル化、グローバル化の進展など急速な環境の変化に対応して、大きく変貌を遂げようとしています。本書『世界の大学図書館――知の宝庫を訪ねて』では、伝統に根ざした研究や教育、社会への貢献などで世界でも名高い11の大学をめぐり、創設以来各界の著名な人材を輩出してきた各大学とその図書館の歴史と伝統にふれ、また新しい時代のニーズに対応して展開しているユニークで先進的なサービスの数々を見ていきます。

 アナログであれ、デジタルであれ、大学図書館のコレクションの規模はその大きな強みです。大学図書館の国際的ネットワークも発展しつつあるいま、コレクションの公開は世界全体の知的コミュニティの形成に寄与するでしょう。この膨大な知識と情報を利用しない手はありません。かつては象牙の塔とみなされてきた大学の壁を越えて、わくわくするような知の宇宙へ、宝物を探しに出かけてみませんか?

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