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ジェンダー不平等の政治構造からの脱却に向けて

記事:明石書店

『政治分野におけるジェンダー平等の推進』(冨士谷あつ子/新川達郎編著、明石書店)
『政治分野におけるジェンダー平等の推進』(冨士谷あつ子/新川達郎編著、明石書店)

政治分野における男女均等参画のススメ

 ものごとを決めるとき、当事者が同じ割合で居合わせないと不公平な結論に至る。これは自明のことです。人々の暮らしの根幹に関する取り組みを決める政治の分野で、話し合いが著しく男性に偏り、女性が疎外されている日本では、女性に不都合なことが実におびただしい。これを放置しておくと、子どもが生まれなくなります。子どもが生まれることにつながりやすい結婚そのものも避けられます。

 しかしそもそも、女性に子どもを産むことや家を守ることばかり期待すること自体が、おかしいのではないでしょうか。女性も力を伸ばし、社会の中でいきいきと生きることが大切ではないでしょうか。そういうことに気づいた国が、少なくありません。

 この本では、社会の各方面におけるジェンダー平等の推進を提言し、そのための活動を続けているジェンダー平等推進機構所属の研究者が、フランスとの交流を通して、特に政治分野に注目して、フランスから学んだことを中心に、さまざまな提言を試みています。この本の著者らは、わが国の最初の女性学・男性学・ジェンダー学の本を世に送った研究者らが創設した日本最初のジェンダー関係の学会である、日本ジェンダー学会の会員でもありますが、特に社会に向けての働きかけに力を注ぐジェンダー平等推進機構という団体を発足させて、さまざまな活動を続けています。

 ジェンダー平等推進機構の中心となる研究者は、女性解放運動の台頭した1970年代からの活動を通じ、これまでにも国会議員と連携した調査等を踏まえ、世論を喚起し、実際に男女雇用機会均等法の制定に漕ぎつけました。2024年に公表されたジェンダーギャップ指数によれば、日本は146ヵ国中、118位であり、特に政治分野での低位が際立っています。昨年より僅かに改善されましたが、先進国中、最下位です。しかし、これは克服できないことではないと、私たちは考えます。私たちは日頃、ほとんど男女均等参画に近い男女共同参画によって活動を続けています。

 この本の共著者には、EU諸国、アジア諸国での学際的研究を重ねて来た人たちが少なくありません。今回の共著でも、そのような研究成果が活かされています。その結果、はっきりしていることは、ジェンダー平等が遅れたなかから立ち上がり、努力が実っている国々が少なくないということです。その上、同じ目標を持つ国々の連携によって拍車がかけられたということも明らかです。

 それにしても、政治分野のジェンダー平等のレベルが先進国で最下位の日本ですが、なんと文学領域では、女性活躍がトップという歴史を、私たちは受け継いでいます。日本文化の固有性が確立された平安時代、文学領域における女性の活躍は目覚ましく、男性たちからも称賛され、高く評価されていました。現在の日本は、どこかでそういうことをないがしろにしてきたと言えましょう。本来の日本文化の素晴らしさに立ち返るべきときではないでしょうか。

 ところで、千年余、日本の首都であった京都は、第2次世界大戦終結間際、原子爆弾投下の予定地でした。寸前で、それは回避され、京都生まれ京都育ちの私も生きながらえて高齢者となりました。かえりみて戦後日本において先進的男女共学、男女平等教育が実践された京都の恩恵を思い返します。本当の日本文化を大切にしたいという切なる思いがあります。

 世界トップクラスの「長命国」(まだまだ、めでたい「長寿国」とは言えません)日本の男女が共有する喫緊の課題があります。ジェンダー平等の達成は、そのために必要なことであり、そのための努力は、戦火に包まれずいのち長らえた者の義務だと思います。

 今回の共著には、前著『フランスに学ぶ ジェンダー平等の推進と日本のこれから――パリテ法制定20周年をこえて』(明石書店。2022)と同じく、共編著者として日本の行政学の代表的研究者であられる新川達郎先生(同志社大学名誉教授)をお迎えいたしました。調査票の作成、インタビュー、日仏の女性議員に関する資料の整理など、多大なお力添えを得て、この本を世に送ることになりました。今後はさらに進捗に差異のある地域の比較から、新しい示唆を得る仕事が必要であり、新川先生との協働を心から期待申し上げる次第です。

                                冨士谷あつ子(評論家)


政治の仕組みを変えて差別を無くす道へ

 冨士谷あつ子先生との共編著として刊行をすることができた本書は、日本において女性の政治参画が進まない状況に対して、客観的に実態を解明するとともに、今後の日本政治の改革方向を具体的に考えるための手がかりとなるものを目指しました。そのために一つは、日本政治における女性政治家の実情を把握することから始めました。加えて、全女性国会議員のデータ整理、女性国会議員に対するアンケート調査とインタビュー調査、各政党の女性政策とりわけ政治参画の推進に関する方針の検討を行いました。

 もちろん国内の事情だけを見ていても具体的な問題状況はわかりにくいことから、近年、急速に女性政治家の比率を大きく増やしてきているフランスにまずは着目して女性の政治分野への進出状況や、フランスにおける女性政治家の特徴などを明らかにしました。そのうえで、いわゆるパリテ法による制度改正と政治環境の変化を踏まえ、フランスの女性国会議員のインタビューを行いました。フランスの国民議会では、2017年選挙までは順調に女性議員を増やして議席数の40%近くにまで到達しましたが、以後、2022年選挙で女性議員が微減、そして今年7月の選挙でも僅かですがさらに女性議員比率が減少しています。その要因を含めて検討が必要となっています。

 国際比較では北欧諸国やEU各国の状況も重要です。本書でも、先進的な位置にあるスウェーデンやEUの女性政策などにも触れています。また女性政治家は、世界的にみても、南の国々にもたくさんいらっしゃいますし、特に女性の大統領や首相がアジアで輩出されていることはよく知られています。もちろんフランスのように選挙制度を女性議員の進出ができるように改正して、法規制によって増やす方向もありますし、政党の自主的な努力によって女性議員を増やしている例もあります。アジアでは門閥の影響によって女性政治家や首相が登場しやすい状況も指摘されています。それぞれの対策やそのメリット・デメリットを改めて考えておく必要があります。

 日本でも女性の政治分野への進出を進めようとする動きが、本書で振り返っているようにこれまでなかったわけではありません。むしろ熱心に取り組んでこられた多くの方々がいたことは心に留めておく必要があります。しかしながらその一方では、日本における女性の経済的地位の問題や、お金がかかる政治の在り方、また政治教育など生涯学習の不備、そして歴史的に培われてきた女性の社会的差別などの問題点を考えると、その改革は容易でないことも明らかです。私たちは一歩一歩着実にこの改革を進めなければなりません。もちろん、日本政治の大きな潮流は、2018年の政治分野男女共同参画推進法制定などもあって、こうした改革に向けて追い風が吹き始めているようにも思います。本書がその一助になれば幸いです。

 筆者は、長年にわたって行政学を中心に教育研究を進めてきました。その関連領域として政府の制度研究や政策研究に触れる機会も多かったのですが、本書のテーマである女性の政治参画やジェンダー平等については、行政というよりは政治の領域であり、管理や統制を旨とする行政とは方向が異なる社会運動ないしは政治運動に属するところと考え、本格的に取り組んできませんでした。しかしながら、冨士谷先生と学会活動を通じてご縁をいただき、この問題の重要性に改めて刮目することになりました。女性の政治参画にとどまらず、幅広くジェンダー平等問題への政策的取組、行政組織や地方自治における男女共同参画またジェンダー平等への取組など、さらに研究を深めていきたいと思っています。

                           新川達郎(同志社大学名誉教授)

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