ISBN: 9784004317944
発売⽇: 2019/09/21
サイズ: 18cm/215,9p
女性のいない民主主義 [著]前田健太郎
読んでいて何度か、くくっと笑ってしまった。あまりにも痛快だったからだ。凝っているツボをきゅーっと押してもらえているような。息の詰まるもやをがーっと吹き飛ばしてくれるような。
本書は、政治学の代表的な学説をひとつひとつ紹介しながら、それらにジェンダーの視点が欠如していたことを指摘し、その視点をさしこむことで政治にかかわる物事がまったく違った見え方になることを示してゆく。
▼政治とは話し合いだ――そこに女性は参加できているのか?
▼政治とは権力の行使だ――日本では権力が男性に集中しているのはなぜだ?
▼政治の重要な争点は経済と安全保障だ――男女の不平等という争点は、気付かれにくいほどに隠蔽されているのではないのか?
▼選挙で代表を選ぶのが民主主義だ――女性の代表が少なすぎる現状は民主主義と言えるのか?
▼利益集団の活動が政策に影響する――特に日本では、主な利益集団は大半が男性によって構成されてきたのではないのか?
▼合理的な有権者は、自らの利益が実現されるように投票する――実際の投票行動は、ジェンダー規範を含むバイアスによって左右される面もあるのではないか?
▼政治は政党を通じて行われ、政党は政治家の活動を助ける――日本を長期にわたり支配してきた自民党は高齢の男性政治家が大半を占めているではないか!当選回数の多さが重視される年功序列的な政党組織は、女性をむしろ不利にしているのではないのか?
ことほどさように、現実世界の民主主義にも、それを研究する政治学にも、「女性がいない」ことになりがちだ。加えて、本書から改めて強く印象付けられるのは、日本てすごく変、ということだ。
たとえば「男性の方が女性よりも政治指導者に向いている」ことに同意する度合いが日本では他の先進諸国より強い。女性議員はあきれるほど少ない。男性稼ぎ主モデルが強いことから、家族構成などに応じて、女性間の有償労働時間と家事労働時間のばらつきはきわめて大きく、女性の利害関心がまとまりにくい。そしていっそう少子化が進んでゆく。
暗澹とする。だが、候補者や議席の一定割合を女性に割り当てることによる女性議員の増加や、家庭内のケアを社会化する「脱家族化」政策など、方法はある。多くの社会ももがきながら「女性のいる民主主義」への道をたどり続けている。日本でもできないはずがない。必要なのは、それを実現するという強い意志だ。高齢の男性保守政治家たちと男ばかりの利益集団に、すべてが食いつぶされてしまう前に。
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まえだ・けんたろう 1980年生まれ。首都大学東京准教授を経て、東京大准教授(行政学・政治学)。『市民を雇わない国家 日本が公務員の少ない国へと至った道』で、2015年にサントリー学芸賞を受賞。