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「女性学」の先駆者が残したもの 社会学者・井上輝子さん、遺著出版に合わせ催し

「井上輝子さんを語る会」は、遺著となった『日本のフェミニズム 150年の人と思想』の出版を記念して開かれた=東京都文京区

 「女性学」研究のパイオニアで、昨年8月に79歳で亡くなった社会学者・和光大名誉教授の井上輝子さんの遺著『日本のフェミニズム 150年の人と思想』(有斐閣)の出版を記念し、「井上輝子さんを語る会」が東京都内で21日に開かれた。オンラインを含めて約250人が参加し、井上さんから受け継いだものや思い出を語り合った。

 井上さんは米国の大学で始まっていた「ウィメンズ・スタディーズ」(女性研究)の講座をヒントに、1974年に日本の大学で初めて「女性学」の講座を和光大に開設。女性学を「女性を考察の対象とした、女性のための、女性による学問」と定義し、女性たち自身の経験と問題意識に基づく新しい学問の枠組みを目指した。

 女性学は次第に学界や社会に定着し、やがて男女の二分法が生まれる仕組みそのものなどを問う「ジェンダー研究」へ発展していった。しかし井上さん自身は、ジェンダーという概念の意義は認めつつも「女性学」の看板を掲げ続けた。依然として性別二分法が原則の社会で、「女」として一律にくくられ、抑圧や差別を経験している多くの女性たちの現実の問題に切り込むために、女性学はまだ必要だと考えたからだ。

 女性学とフェミニズムの蓄積をまとめた『女性のデータブック』などの編集。地元川崎市の男女平等行政への参画。年齢・経験不問の読書会。語る会では、学界にとどまらないさまざまな場で井上さんと一緒に仕事をしたり影響を受けたりした人たちが、「穏やかでシスターフッド(女性同士の連帯)にあふれていた」「粘り強く緻密(ちみつ)に闘った」と人柄をしのんだ。

 上野千鶴子・東京大学名誉教授は、「『女性という特定の集団の利益に奉仕する研究は、学問でなくイデオロギー』といった偏見にさらされながら、女性学を作り上げたのが井上さん。私たちがその仲間だったことを誇りに思います」と語った。(高重治香)=朝日新聞2022年3月30日掲載