1. じんぶん堂TOP
  2. 教養
  3. いよいよ中学受験シーズンが到来! ~『超難関中学のもっとおもしろすぎる入試問題』(松本亘正著)の編集を終えて~

いよいよ中学受験シーズンが到来! ~『超難関中学のもっとおもしろすぎる入試問題』(松本亘正著)の編集を終えて~

記事:平凡社

小学6年生が解く問題にやや手こずる編集担当H。「昔は答えがわからないとすぐに解答を見ていた」という忍耐力のなさが露呈。
小学6年生が解く問題にやや手こずる編集担当H。「昔は答えがわからないとすぐに解答を見ていた」という忍耐力のなさが露呈。

2025年1月15日刊の平凡社新書『超難関中学のもっとおもしろすぎる入試問題』(松本亘正)
2025年1月15日刊の平凡社新書『超難関中学のもっとおもしろすぎる入試問題』(松本亘正)

学校も“生き物”である!

 2024年9月のある日。著者の松本亘正ひろまさ先生から掲載問題のリストが送られてきた。トップバッターはやはり、開成中だ。言わずもがな、男子御三家の1校で超難関校。開成中の問題を試しに解いてみると、全問正解! 心の中でガッツポーズを決めたが、でも当たり前か(汗)。大人になった今、解いているのだから……。でもこうした問題を小学6年生が解くとなると話が違う。やはり、開成中に受かる子は何かが違うと改めて思った次第だ。

 今回の新書の編集は、通常の新書や単行本の編集とは違った頭の使い方をするので、純粋に楽しい。脳トレにもなるし、「この問題、面白いよね」と同僚との会話の“ネタ”にもなる。いい年の大人たちが、「あーでもない、こーでもない」と盛り上がることができるし、新しい知識を身に付けることもできる。……だいぶ道が逸れてしまったので、そろそろ仕事に戻らねば。はい、入試問題を新書に掲載するためには、各中学校から掲載許可をいただく必要があるのです。その手続きを早く終わらせなくてはならないのだ。再び松本先生から受け取った問題のリストに目を向ける。

 「広尾学園」「三田国際」「サレジアン国際」。私が受験した約30年前には聞いたことがない学校だ。どんな学校なのかと調べてみると、かつては順心女子学園、戸板女子、星美学園という名前の学校だった。北区にある星美学園は友だちが通っていたことあったので、学校名が変わって少しさびしい思いもしたが、企業が名称変更するように、学校名も変わっても不思議ではない。かつては女子校だった3校は、現在は共学校で英語やIT教育に力を入れ、海外大学への進学者を出している人気校になっている。時代の流れに伴って企業が事業や経営形態などを変えるように、学校も変わらねばならないというわけだ。学校は永遠に存在するものだと思っていたのだが、経営が大事なのだなあと大人になってしみじみ考える。学校も刻々と変化を遂げる“生き物”なのである。

駅の自動券売機の硬貨投入口

 中学入試の問題は、某学習塾の広告にあるように、「シカクいアタマをマルくする」ものが多い。私が中学入試を受けた時代とは違って、暗記やテクニックだけでは解けない、そんな問題が多くなっていると実感した。

 駅の自動券売機の硬貨投入口はなぜ縦になっているかをたずねる問題を出した千葉県の渋谷教育学園幕張中。今やICカードで買うことが100%という状況。小学生もICカード使用率が多いし、硬貨の投入口まで見ている子はどれくらいいるのだろうと思った。親がICカードにチャージしている子も多いだろうし、そういう子は硬貨を入れて自販機で何かを買うという経験をあまりしていないかもしれない。この問題は硬貨の特質を考えて答えを出すというものであったが、そもそものところ、自分で何かを買ってみる、やってみる、いろんなところをみてみる、ということの大切さを痛感させられる問題だ。(答えは本書をご覧ください)

 実はこの問題、新書編集部の中で特に話題になり、「飲料水の自販機の硬貨の投入口は横?」「コインパーキングの硬貨投入口はどっち?」など、いろんな意見が出た。私は券売機の硬貨投入口の位置がパッと思い浮かばなかったので、帰りにJRの駅に行って自動券売機の硬貨投入口を実際に見てみることにした。「あー、あったわ、ここに!」と思わずつぶやいてしまった私はちょっと変な人だったかもしれないが、受験問題に触れるといろんな新しい発見があって面白いと改めて思った次第。

「中学入試は社会を映し出す鏡」

 今回掲載した問題のうち、個人的に一夜漬けでは叶わないと一番強く思ったのが鷗友学園女子の入試問題だ。問題の文章量が多く、解答も記述式。核保有国はなぜ核を持ち続けることで戦争を回避できると考えているのか、高齢社会の問題、生成AIに関する課題などを問うものがあり、日頃から時事問題に関心を持っていないと問題文すら理解できないかもしれない。またネット検索で簡単に答えが見つかる時代にあって、自分の言葉で説明をするということが希少価値を高めているが、鷗友女子学園の問題はそれを象徴していると感じた。

 今の中学受験生たちはやることが多くて大変だろうなあと感じたが、これからの時代を生き抜いていくためには必要な力なのだから、頑張ってやることが一番なのだなと。社会の流れをうまくつかみ、それに乗る。それだけが大切じゃないよと思うかたもいらっしゃると思うが、流れに乗れないよりは乗ったほうが大人になってからいろんな面で役立つことは間違いないと思う。

 本書の著者、松本先生はあとがきにこう書いている。

社会の変化によって教育の内容が変わり、そして入試問題も変わります。「中学入試は社会を映し出す鏡」です。

 いよいよ今月から中学受験が本格的に始まる。試験問題を単なる試験問題として捉えるのではもったいない。社会のあれこれが凝縮されているのだから、大人も楽しめます。いや、大人こそ楽しんでもらいたいです。小学校6年生のときに、そんな良問に巡り合うことができる受験生たち、その経験はきっと後々に“糧”になります、とエールを送りつつ、そろそろ、このあたりで本稿を〆ることにしたい。

(文章=平凡社編集部・平井瑛子)

『超難関中学のもっとおもしろすぎる入試問題』目次

第1章 開成が求める「一般常識」
東大本郷キャンパスがある区は?/さらに細かい「東京問題」/教科書にも出てくる杉原千畝/終戦時の内閣総理大臣は? など 

第2章 聖光学院が求める「一般教養」
仮想通貨のシェア1位は?/香港の民主化運動の「女神」/「フェアトレード」って何だ?/ハトの反対の鳥は? など

第3章 筑駒が求める「貢献」
孤独・孤立の問題の背景/新型コロナの社会的影響 など

第4章 関西難関中の「おもしろすぎる」入試問題〈西大和学園・東大寺学園・洛南〉
妊婦さんに配布されるバッジは?/ポケモン? マリオ?/「人造バター」/このお肉はどこから?/「食」を通じた社会支援 など

第5章 渋幕・渋渋が求める「なぜ?」
おじいさんがかりとってきた「シバ」/休日や夜に裁判官が宿直しているワケ/硬貨の投入口の「縦と横」問題 など

第6章 三田国際学園の「PBL型入試問題」
人口10万人あたりのハンバーガーショップが多いのは?/県境に同じ地名がある理由/ジェンダー問題について考える など

第7章 中学入試問題は時代を映し出す鏡〈鷗友学園女子・広尾学園・ラ・サール・麻布・豊島岡女子・筑波大附属〉
“書く量”が多い鷗友学園女子/人間はAIとどう向き合えばよいのか/なぜ核兵器を持ち続ける国があるのか など

ページトップに戻る

じんぶん堂は、「人文書」の魅力を伝える
出版社と朝日新聞社の共同プロジェクトです。
「じんぶん堂」とは 加盟社一覧へ