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サプリで野菜不足は解消できる? 正しい食生活を送る方法を腸内細菌の専門家にインタビュー

記事:白揚社

キングス・カレッジ・ロンドン遺伝疫学教授、個別医療や腸内マイクロバイオームの専門家でもあるティム・スペクター氏
キングス・カレッジ・ロンドン遺伝疫学教授、個別医療や腸内マイクロバイオームの専門家でもあるティム・スペクター氏

――あなたは2020年8月に”Spoon-Fed”(邦訳『歪められた食の常識―食品について聞かされた事のほぼすべてが間違っているわけ』)、そして2022年10月に”Food for Life”(未邦訳)を上梓しましたが、その2年間で食について新しい発見を目の当たりにしましたか?

ティム・スペクター:多くの新発見があります。というのもイギリスで腸活に対する意識が高まる中、我々はZOE(https://zoe.com/)という会社を起業し、何十万人もの顧客から、マイクロバイオームの試料と彼らがとっている食べ物についての情報を提供されたからです。我々は今、世界最大のgut health(胃腸健康、腸内健康、腸内環境)のデータベースを持っています。だから多くの新発見が出てくるのです。その中でも最大の発見は、良好な腸内健康(環境)に対する評価の仕方を変えたことだと思います。腸内環境が同じである人はいませんが、そういうときに何を持って<良好な腸内環境>と言えるのか、それは科学分野でビッグ・クエスチョンでした。

――何か新しいツールを使ったのでしょうか。

ティム:細かい部分まで測定するために、今までと同じ遺伝子配列解読技術を使いますが、毎年顧客の増加とともにサンプル量がかなり増えてきたので、データがたくさん集まっています。そして、我々は100種類の微生物の中の、50種類の善玉微生物と50種類の悪玉微生物の比率の経時的変化を見ることが、腸内環境を測定するベストな方法だとわかったのです。その変化を見て、顧客にアドバイスすることができます。

――そのアドバイスの中にあと何年くらい生きることができるか、というアドバイスも含まれますか?

ティム:顧客には、正しいことをしているかどうかを伝えることができます。他の会社で腸内環境の経時的変化を調べる会社はありません。血圧を定期的に測定している人はいますが、それと同じようにZOEでは腸内環境の変化を調べます。どういう食べ物がいいかを調べて、実験することもできます。新しい食べ物が出てきたときに、それが腸内にいいかどうかを調べることもできます。

――確か”Spoon-Fed”の中にコーヒーが健康ドリンクであることが書かれていたと思います。

ティム:オレンジジュースや他の飲み物よりもはるかに健康にいいですね。コーヒーは心臓発作のリスクを減らし、また血圧も下げます。データがたくさんあるので、一つの微生物と特定の食べ物や飲み物の関係も調べることができます。例えば特定の昆布と腸内微生物の関係も調べられます。

ティム・スペクター『歪められた食の常識―食品について聞かされた事のほぼすべてが間違っているわけ』(白揚社、寺町朋子訳、2021年)
ティム・スペクター『歪められた食の常識―食品について聞かされた事のほぼすべてが間違っているわけ』(白揚社、寺町朋子訳、2021年)

――元サッカー選手の中田英寿氏は野菜嫌いで、それをビタミン・サプリメントで補っていることは有名な話ですが、良好な腸内環境を維持するのに、野菜を食べないでサプリメントで補えるものでしょうか。

ティム:できません。単純な話です。短期的にはできますが、長期的にはできません。肉食しかだめな人は恐らく人口の1%くらいでしょうが、ほとんどの人は肉だけでは長生きできません。人間は雑食動物ですから、いろいろなものを食べないとだめです。

――あなたは加工食品を買うときにラベルがある場合、それを見ますか?

ティム:見ますね。<低コレステロール>とラベルに書いてあっても、それは健康に関係ありません。加工の段階で多くの添加物が入れてあるので、健康に悪いことは間違いありません。低脂肪とか低カロリーとか、ラベルにたくさん書かれているほど、健康に悪いです。同じものでも自然食品と加工食品を比べると、加工食品にはもっと食べたくさせるような添加物が含まれています。25%余計に食べたくなるという研究結果もあります。中毒にさせながら、満腹感を与えないようにしているのです。糖尿病になりやすく、肥満になるようにできています。人工添加物が多ければ多いほど、腸内環境には悪いです。寿命も短くなります。

――私はサンフランシスコにある有名な遺伝子検査の23andMeという会社で、遺伝子検査をしてもらいました。それでいろいろなことがわかりましたが、加工牛乳の消化が悪いこともわかりました。あなたは顧客に遺伝子検査をすることを勧めますか?

ティム:勧めません。そのため、ZOEは遺伝子検査を提供していません。遺伝子検査は正確でいろいろなことがわかりますが、実際に検査結果によって、生活が変わることはほとんどありません。しかし、ZOEで行う食べ物と腸内環境の経時的変化を調べる検査では、具体的なアドバイスをすることができます。

――腸活はイギリスでますます注目されているようですね。

ティム:その通りです。

――ZOEを作った契機は何ですか?

ティム:“The Diet Myth”(邦訳『ダイエットの科学―「これを食べれば健康になる」のウソを暴く』)という本を出したあと、2017年にその本についての講演をしました。聴衆の中に新しいプロジェクトを探している2人の起業家がいて、講演後に起業したいという話を持ち掛けられました。彼らが資金を調達して会社を設立することができました。軌道に乗ったのは2023年です。2023年の売り上げは前年の10倍になり、1億ドルです。スタッフも500人まで増え、アメリカにも会社を設立しました。

ティム・スペクター『ダイエットの科学―「これを食べれば健康になる」のウソを暴く』(白揚社、熊谷玲美訳、2017年)
ティム・スペクター『ダイエットの科学―「これを食べれば健康になる」のウソを暴く』(白揚社、熊谷玲美訳、2017年)

――顧客が最初にやることは?

ティム:登録することです。そのあと便サンプルを送ってもらいます。それをZOEで分析すると、腸内のマイクロバイオーム(微生物叢)がわかります。ZOEアプリをスマホに入れるとパーソナライズされたスコアが出ます。そのスコアに従って、肉を減らして、海藻を増やした方がいいとか、具体的なアドバイスをします。アドバイスに従った後の経時的な変化をみると、スコアの上昇により、何が効いているかすぐにわかります。てきめんに効果が現れます。

――日本食は腸内環境にいいと理解していますが、実際はどうですか?

ティム:納豆や豆腐など腸内環境にすこぶるいい食べ物もありますが、コンビニに売っているスナックは腸内環境に悪いですね。味噌など麹菌を使って作られたものは腸内環境にいいです。また、タケノコやレンコンやゴボウなどの根菜もいいですね。一つの種類のものを食べるのではなく、多種多様な根菜を食べるのをおすすめします。
 私は今日本のホテルに泊まっていますが、朝食は最高ですね。味噌汁や納豆など、いろいろなものを少しずつ食べることができますから。コーヒーもおいしいです。カフェインに敏感な人は、カフェイン抜きのコーヒーがあります。あまり見かけませんが、昆布茶も腸内環境にいいです。

――肉は食べますか?

ティム:あまり食べません。食べても月に1、2回です。高品質な肉であれば問題ありませんが、肉を食べ過ぎると野菜が入る余地が減ります。また、鶏肉は食べませんね。肉を選べる場合は牛肉にします。鶏は抗生物質や化合物を与えられていることが多いので、あまり健康的ではありません。

――日本人に対するアドバイスをお願いします。

ティム:できるだけ多くの種類の植物を食べることです。週に30種類を食べるのがベストです。日本には多くの種類があるので、難しくないでしょう。ファストフードは、年に1回くらい食べるのはいいですが、できるだけ避けるべきです。韓国の食べ物ですが、キムチも腸内環境にいいですね。夜遅く食べることも腸内環境に悪いです。腸に休みを与えないといけませんから。

(聞き手:大野和基)

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