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「働けない」ことの罪悪感とコンプレックス――絶対に終電を逃さない女さん×栗田隆子さん対談(前編)

記事:平凡社

手前より、絶対に終電を逃さない女さんの著書『虚弱に生きる』(扶桑社)と、栗田隆子さんの著書『「働けない」をとことん考えてみた。』(平凡社)。SNSでは「あわせて読みたい2冊」という声も
手前より、絶対に終電を逃さない女さんの著書『虚弱に生きる』(扶桑社)と、栗田隆子さんの著書『「働けない」をとことん考えてみた。』(平凡社)。SNSでは「あわせて読みたい2冊」という声も

「バリバリ働く女性」への憧れと現実

絶対に終電を逃さない女さん(以下、終電):去年『虚弱に生きる』を出すことに決まった時に、参考になりそうな本として『「働けない」をとことん考えてみた。』を読ませていただきました。まずタイトルと、キャッチコピーの「働かない、働けない、働きたくない……」に惹(ひ)かれました。私も自分に対して「働けないけど、働きたくないだけなのかな」っていう疑念とか、働けないことへの罪悪感がずっとあったので。

栗田隆子さん(以下、栗田):ありがとうございます。とっても嬉しいです。

終電:私は労働時間も収入も人並みの半分以下だし、今後まったく働けなくなる日がいつ来てもおかしくないと思っています。そういう立場として読んですごく励まされましたし、「働けない女性」として生きることについても考えさせられました。

栗田:私は大学院の頃に大阪の西成で生活保護を受けている人たちに出会って、そこから福祉制度について知ったり、労働運動に関わるようになったりしていくんですけど、西成という場所も男の人の多い場所だし、労働運動でも女性は少数派なんですよね。

終電:「寅さんやスナフキンとか働かずにフラフラしている男性のキャラクター像はわりといるけれど、女性バージョンはいない」という栗田さんの指摘を読んだ時に、そうだなと。やっぱりそういう女性キャラもあって欲しいなと思います。

栗田:フェミニストといえば「バリバリ働く女性」というイメージは、まだ根強くありますよね。なにかと「女性初の〇〇」って言われ方をされますし。女性が活躍することや頑張ることに意味はあると思いつつも、自分はそういうフェミニストにはなれないし、それだけがフェミニズムということにしちゃうと女の人の枠が縮められちゃうなと感じます。

栗田隆子さん(左)、絶対に終電を逃さない女さん(右)
栗田隆子さん(左)、絶対に終電を逃さない女さん(右)

終電:私自身、子どもの頃はバリバリ働いている、強くてかっこいい自立した女性に憧れていて、そういう女性になるには「働いて自分で収入を得ていること」が絶対条件だと思ってたんです。だから大人になって、虚弱で働けない自分にコンプレックスを抱くようになったんですが、栗田さんの本を読んで、そんなふうに働くことがすべてではないし、あえて怠けるとか働かずにいるっていうことも、フェミニズムになりうるんだなって。

栗田:怠けるぞって言ってきてよかったです(笑)。ただ、怠けることも案外難しい。私が20代の頃はちょうど就職氷河期で、「自己責任」という考えが広まった時期でもありました。風邪をひいて会社を休むと「自己管理ができてない」みたいな言い方がされだした時期で、それはすごく不本意だなという気持ちがありました。管理しようとしても、どうしようもなく調子が悪いことってありますよね。

自分の身体に裏切られる

栗田:『虚弱に生きる』を読んで、終電さんはご自身の体調の悪さに本当によく向き合っているなと感じました。私の場合はかなりお天気屋で、調子がいい時はいいんですが、悪い時はテコでも動かないタイプ。それもあって自分の身体に向き合うことが下手です。終電さんは健康になるために卓球やラジオ体操をしたり、それでちょっと調子が良くなったりしていて、「自分の体が思い通りに動くのは、達成感もあるし幸せなことだ」って書かれているのを読んだ時に、なんかハッとして泣いちゃったんですよね。ほんとそうだよなあって。

終電:体調が悪くなるのって、「自分に裏切られてる」ってことですからね。自分の身体が、自分の言うことを聞かない。

栗田:そう、すごく惨めな気持ちになるし、感情の行き先がないというか。腹立たしいんだけど、振り上げた拳の持っていくところがない。調子が悪い時は拳を振り上げる力もないですし。

終電:もしかしたら、そういう怒りをぶつける対象を、SNSとかで無理やり探してる人もいるのかもしれないですね。

栗田:自分への苛立たしさが、場合によっては誰かへの攻撃になっちゃうことは、たしかにあるかもしれません。あと、よく我々が言われるのは、「それでも本を書ける人はパワーがありますよね」的なこと。

終電:言われますね。

栗田:終電さんはそう言われちゃった時、どう感じますか。

終電:事実として、書く体力はわりとあるのかなと思います。同業の方と話しているとプロの物書きの方であっても「1日数時間しか書けない」ということもあるらしいので。私は調子が良い日なら1日8時間くらい書き続けることもあります。それを毎日続けることはできないんですけど、淡々と書き続けること自体はできるタイプです。

栗田:書く仕事ができるからと言って、じゃあバイトや会社勤めがテキパキできるかというと、そうじゃないんですよね。「できて当たり前」と思われていることや「単純労働」と言われてるものが私にとっては全然単純じゃないとか。そのへんはもうタイプの違いだよねと思います。

終電:栗田さんが工場のアルバイトをクビになったエピソードは、自分を重ねながら読みました。私も以前、単発の工場バイトをクビになったことがあったので。

栗田:仲間ですね(笑)。ちなみにいま私は塾講師のアルバイトをやっているんです。不登校を経験したこともあって、教育関係の仕事はずっと避けていたんですが、年齢が上がると単発の仕事は採用されづらくなるんですよね。エッセイにも書きましたが、障害年金が諸事情で等級が下がって受給額が減ってしまって。仕事を増やさなきゃいかんと、なりゆきで塾の仕事を始めたんです。皮肉なことに、やり始めてみたら意外と楽しくて。世間の人が「仕事は面白い」とか言うのってこういうこと?みたいな。50を過ぎて初めて知る感覚でした。

終電:いいお話ですね、希望を感じます。私はいま30歳なんですけど、自分でも想像してなかったことが人生に起こるという意味では、20代前半の私からすると、いまの健康状態ですら「この程度になれるなんて」という感じなんです。

栗田:『虚弱に生きる』を読むとよくわかりますね。終電さんは体調が良くなったり悪くなったりしながらも、その過程でご自身についてたくさん発見を重ねてきたんだなと感じました。

左:栗田隆子『「働けない」をとことん考えてみた。』平凡社/右:絶対に終電を逃さない女『虚弱に生きる』扶桑社
左:栗田隆子『「働けない」をとことん考えてみた。』平凡社/右:絶対に終電を逃さない女『虚弱に生きる』扶桑社

終電:そうですね。自分が意志を持ってやった行動によって身体やメンタルに影響があるっていうのは、自己効力感にもつながるし、「自分にも可能性があるんだ」って思えます。

栗田:自分と向き合う誠実さみたいなものが終電さんの本にはあって、そこが読者の方に支持されているところなんじゃないかなと。

終電:ちゃんと向き合って「健康になろう」っていう努力をしてないと、たぶん読んでもらえないんですよね。それこそ「怠けてんじゃねえ」って言われちゃう社会の現実があるので。

「標準」を疑う声が出てきた一方で……

栗田:我々のエッセイもそうですが、2025年は「体力がない」とか「働けない」ことをテーマにした本がいろいろ刊行された気がします。いわゆる「普通」の枠にはついていけないよっていう声がたくさん出てきて、社会の標準というものを疑うモードになってきたのかなと感じていました。ところが、いまの政権的にはすごい働かせたいモードで、どうしたものかっていう。生活保護を3年で打ち切ることを検討しているとか、高額療養費制度の見直しだとか、矢継ぎ早にニュースで報じられていますね。

終電:自分の生活に直結してくるので、単純に不安になりますね。20代からいろんな不調で病院に行きがちなのに、今後歳をとって、医療費が数十万、百万単位でかかる時がくるかもしれないと思うと、高額療養費制度がなかったら、自分はもう死ぬんじゃないかって思います。

栗田:ガン治療なんかも高額療養費制度の対象ですから、闘病してる人はすごく困るはずです。「民間の保険に入れ」という動きもあるみたいだけど、健康保険料を払うのすら大変な人もいるんだから、勘弁してよと思います。

終電:民間の保険なんて入れないですよ。私には縁のないものだと思ってます。困るんですよね、本当に。

栗田:民間の保険だと鬱を抱えている場合は加入できないようなケースも多いんですよね。私はいちおう鬱でも加入できる、月額1000円の生協の保険だけは入ってます。我々が生きのびる上で、こういう情報も交換できるといいですね。

(後編へ続く)

構成=野﨑真鳥(平凡社編集部)

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