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『「生保レディ」の現代史』書評 驚異的な加入率を達成した「謎」

評者: 酒井正 / 朝⽇新聞掲載:2026年01月17日
「生保レディ」の現代史―保険大国の形成とジェンダー― 著者:金井 郁 出版社:名古屋大学出版会 ジャンル:女性学

ISBN: 9784815812140
発売⽇: 2025/11/26
サイズ: 15.7×21.7cm/352p

『「生保レディ」の現代史』 [著]金井郁、申琪榮

 日本は生命保険の世帯加入率が9割にも上る保険大国だという。だが、保険は購入してすぐにメリットを実感できるわけではなく、戦後の規制の下では保険商品の差別化を図ることも難しかった。そのような商品特性にもかかわらず驚異的な加入率を達成できたのは、偏(ひとえ)に潜在的な需要を掘り起こす営業活動の賜物(たまもの)だ。そして、それを支えたのが、「正社員」として歩合給で働く女性たち、すなわち「生保レディ」の存在だった。生保レディを通して保険大国形成の謎に迫った本書の着眼点の良さに脱帽する。
 日本の生命保険会社の営業は、二重の意味で性別役割分業に依存していた。まず、男性の稼ぎ主が購入者として想定され、一家の大黒柱の万一に備える目的でニーズが喚起された。必然的に、販売される保険は死亡保障が中心となる。一方、販売者である生保レディも、募集にあたっては育児をしながら働けることが強調された。ただ、高収入の実現も可能とはいえ、生活していくのに十分な数の保険契約を維持するためには、実際には「顧客ケア」が必要となり、長時間労働になりがちだ。安定した収入のある夫を持つ者が家計の補助として働く場合には、確かに働きやすかったのである。独身や共稼ぎの世帯の顧客が増えた現在、従来の営業方法は岐路を迎えているという。
 評者には、この生保レディという職業が、昨今、叫ばれているジョブ型雇用に重なって見えてしまった。その意味では生保レディは時代を先取りしていたのかもしれないが、それがジェンダー規範に拠(よ)って成立していたという事実は、ジョブ型雇用の導入にも大きな示唆を与えそうだ。
 80年代以降に参入した外資等の後発型生保では営業の主力は男性となるが、そこでは家族を養える仕事として男性性が戦略的に打ち出された。この国のジェンダー化されたビジネスモデルの根深さに、なんだかなあと思わないでもない。
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かない・かおる 埼玉大教授(労働経済論、ジェンダー論)▽しん・きよん お茶の水女子大教授(政治学、ジェンダー論)