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ビジネスはゲーム、うまく運ぶためのルールがある ジェーン・スーさんが選ぶ「はたらく」を考える本

文:永井美帆、写真:有村蓮

ジェーン・スーさんが選んだ「はたらく」を考える本

  1. 『ビジネス・ゲーム 誰も教えてくれなかった女性の働き方』(ベティ・L・ハラガン[著]/福沢恵子・水野谷悦子[共訳]、光文社知恵の森文庫)
  2. 『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 女子刑務所での13カ月』(パイパー・カーマン[著]/村井理子・安達眞弓[訳]、駒草出版)
  3. 『重版出来!』(松田奈緒子/「月刊!スピリッツ」連載、小学館)

「はたらく」を考える本(1)|『ビジネス・ゲーム 誰も教えてくれなかった女性の働き方』

 新卒でレコード会社に入って、8年くらい宣伝の仕事をしていました。思い返せば、何かにつけプンスカしてましたね。「上司が頼りない」とか「一生懸命に働かない先輩がいる」とか、いつも怒っていた気がします。そんな20代の頃に出会いたかった本ですね。「ビジネスはゲーム」と言い切り、ゲームをうまく運ぶためのルールを説明しています。女性には分かりづらいルールばかりですが、知っているといないとでは大違いだと思います。

 特に目から鱗(うろこ)だったのが、ビジネスで評価される資質と社会が期待しがちな女性の役割が持つ資質の相性があまりにも悪いっていうこと。「女性らしい」とされる社会規範って、でしゃばらないとか、思慮深いとか、情緒豊かとか。これ全部ビジネスの世界で成果をあげるには役に立たない資質なんですよね。だから、「旧来型の女性らしさを兼ね備えたプロジェクトリーダー」っていうのは、「黒い白馬」くらい無理がある。

 なぜこうなったかと言えば、これまで「外で働く」という役割は主に男性が担ってきたからです。その人たちがやりやすいルールが形成されたんですね。男性が女性を排除しようと、意図的に作ったルールってわけじゃない。ビジネスの場に女性が増えてきたことを受け、当然ルールも変えていかなきゃいけないはずです。だけど、会社員として働いていた頃の私はそのことに無知で、無自覚でした。うまくやれないのは私の能力が足りなかったからでも、私がわがままだったからでもなく、ルールを知らなかったから。これは1977年のアメリカで出版された本ですが、内容は今の日本にもそのまま適応できるでしょう。悲しいというか、悔しいことです。

 働き出して2~3年経つと、女性には「どうして上司にも、家族にも認めてもらえないんだろう」とか「仕事は楽しいけど、プライベートで女性として期待されていることが出来ない自分が嫌だ」といったモヤモヤが生まれてくると思います。でも、うまくいかないのは自分のせいじゃなくて、単純にビジネスのルールが女性向けに作られていないから。これを読むと、「なーんだ、私が悪いわけじゃないんだ」って、あまり感情を揺さぶられずに働くことが出来るようになると思います。まさに金言集。20代の女性に配って歩きたいくらいです。

「はたらく」を考える本(2)|『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 女子刑務所での13カ月』

 中流家庭で育った白人女性が過去に犯した罪で刑務所に入ることになるという著者の実体験をもとにした小説です。ドラマにもなり、Netflixで配信されていて、私はドラマから入りました。刑務所の中には、主人公のパイパーがこれまで「自分とは違う人間」と線引きしてきたような困難な環境で生きてきた人たちがたくさんいます。でも、刑務所に入れば扱いはみんな同じじゃないですか。経済的豊かさや学歴というバックボーンが役に立たない中で、どう戦っていくか。一瞬でも弱いところを見せたら食い物にされるし、仲良くなるにはルールを学ばなきゃいけない。環境は劣悪で、誰かと協力しないとやっていけない。だから、ルールを学んで仲間をつくり、互いに知恵を使って看守の裏をかく。「最凶の女子校」って感じで、女性にもこんな強い生き方が出来るんだと勇気がもらえます。

 塀の外では恵まれた環境で社交的に生きてきたパイパーですが、刑務所では最初からうまく出来たわけじゃないんです。出される食事がまずいと冗談交じりに文句を言うんだけど、その場に調理場のボス・ポップがいて、きつい仕打ちを受ける。新しい環境では、まず周囲をじっくり観察することが大切なのに、それを怠った結果です。その他の場面でも、パイパーは気に入らないことがあると真正面から不正を問いただしていこうとする。だけど、「変だな」「どうかしてる」と感じるのにそのままになっていることには、必ず理由があるんですよ。だから、何か不満があっても安直に口に出すと後で痛い目を見ることになる。

 私も会社員時代に転職先で似たような洗礼を受けたことがあります。良かれと思ってした行動で地雷を踏むというか。若い頃はなかなか気づけないけど、何かの壁にぶつかった時、サバイブする方法は正論をぶつけること以外にもあると、この本は教えてくれます。パイパーは学習能力が高くて、次第にうまく渡り歩くようになるんだけど、途中から調子乗っちゃってね。パイパーを見ていると自分の浅はかさとか傲慢(ごうまん)さにも気づかされます。だから、働いてしばらく経って「周りがついてこない!」「何でみんな頑張れないわけ?」とか言っちゃってる30代は読むと良いと思います。戒めになります。私も30代前半でこれを読みたかった!

「はたらく」を考える本(3)|『重版出来!』

 大好きなお仕事漫画です。私にとって最初のお仕事漫画は、世代的にやっぱり『働きマン』(安野モヨコ作、講談社「モーニング」で2004~08年連載)なんです。『働きマン』は今読んでも元気をもらえますが、女性でも男モードにならなきゃ責任ある仕事なんて務まらないし、そうすると恋愛やプライベートで犠牲を払わざるを得ないという、女の人が一生懸命仕事をすると受ける罰みたいなものも描かれていました。でも、『重版出来!』にはそれがほとんどない。少なくとも主人公の新米漫画編集者、黒沢心には。猪突(ちょとつ)猛進な彼女は魅力的なキャラクターですが、物語の回し役としても非常に優秀。彼女が奮闘すると、編集長や先輩編集者、漫画家たちの横顔までふんだんに見られるんです。仕事って主役だけじゃなく、たくさんの脇役がいてこそ。誰もが主人公だと言えます。色んな年齢、立ち位置の人物がきめ細かく描かれていて、どんな世代の人が見ても楽しめる作品だと思います。

 コミックス最新刊の12巻で、「担当する漫画家を先輩に奪われる」と愚痴った心が別の先輩にピシャリと言われる場面があるんですけど、ページをめくると全面に「ようし、やってやる!」という決意に満ちた心の顔がドーンと描かれてて、思わず大声で「がんばれ!」って言っちゃいました。家で1人で読んでたんですけど、やばいやばい、物語に入り過ぎたって。コマごとに効果音が聞こえてくるような、映画やドラマを見ているような臨場感があります。どんなに疲れていても、「仕事って楽しいな」「明日も頑張ろう」って思わせてくれる漫画です。

 20代の頃は忙しかったし、そんなに本を読んでこなかったんですけど、あの時読んでいれば仕事の助けになる本がたくさんあっただろうな。惜しいことをしたって思いますね。今の20代、30代の子たちが働いている環境って、厳しい厳しいと言われていた就職氷河期の私たち世代よりもっと状況がシビアだし、経済的にも精いっぱい。だからこそ、うかつなアドバイスは出来ないけど、本には実生活の役に立ったり、つらさを忘れさせてくれたりする効果があるってことは言えるかな。

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