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菰野江名さん「まどろみの星たち」インタビュー 24時間の夜間保育園、利用者の事情が描き出す社会

菰野江名さん=篠塚ようこ撮影

子どもの生活リズムを絶対に崩さない

 2026年現在、日本の共働き世帯は1330万世帯を超え、専業主婦世帯(約476万世帯)の約2.8倍の規模となっている。共働きが主流になっている背景には、経済的安定や女性の社会進出、ライフスタイルの変化があるといわれている。

 自身も共働き世帯である菰野江名さんは、朝、裁判所に出勤する前に子どもを保育園に預けている。今は残業が少ない部署で働いており、17時台にはお迎え。幼い子どもを育てている上に、もともと朝型という菰野さんは、夜は早めに就寝するという日々を送っている。ある夜、街を歩いていたところ、空のベビーカーを押して歩く女性の姿が目についたという。

「その女性はある建物に入っていったのですが、保育園のお迎えだったんですね。夜もやっている保育園があるんだ、ということにその時、初めて気づきました」(菰野さん)

 

 夜間保育園に興味を持った菰野さんは、夜間保育園に関するドキュメンタリー映像を観たり、ノンフィクションを読み始めたりした。都内で24時間保育を行っている保育園にも取材に行ったという。

「午後3時くらいにお邪魔したのですが、ちょうどその頃に園児たちがお散歩から帰ってきたんですね。私が子どもを預けている保育園は午前中にお散歩に行くので、午後にお散歩に行くんだ、と驚きました。夜になると、いまみんなが過ごしているこの部屋にお布団が敷かれ、子どもたちがここで寝るのかな、と思うとわくわくした自分がいました」

 24時間体制の保育園で一番印象的だったのが、子どもが保育園に来るのが夕方や夜間だったとしても、夜になれば子どもたちを寝かせるということだった。

「夕方に来た子どもたちは、夕飯を食べてお風呂に入ったらあとは寝るだけ。夜間保育園にいる間も、子どもの生活リズムを絶対に崩さないんです。それはうかがった保育園だけでなく、ほかの24時間保育園でも大切に守っていることだったので、小説でもそこは大事にしました」

 

「少しでも世間がマイルドに」

 本作『まどろみの星たち』の舞台である「つづきの保育園」は、認可保育園でありながら夜間保育を行う、東京でも数少ない24時間体制保育園。新宿三丁目にあり、場所柄、飲食店で働く親を持つ子どもが多いと思いきや、実際には医療関係者、夜間勤務のある公務員や会社員、夜間に働くシングルマザーや外国人など、さまざまな理由で夜に働く人たちも多く預かっているという設定だ。

「私がお話を聞いた保育園に通う親御さんは本当に多様でした。いろんな人がいて、さまざまな理由で夜間保育を利用していることを知って、私の視野がばーっと広がったような気がしました」

 本作にも、さまざまな事情を抱えた親が登場する。夜間のコンビニエンスストアで働く外国人女性、母が医師で父が看護師という夫婦、新宿のキャバクラで働くシングルマザーなど――。子どもを夜間に預ける理由も、必ずしも経済的な理由とは限らない。

 

「夜間に子どもを預けて働かないと生活できない、という切羽詰まった状況の人もいると思いますが、母親自身が働きたくて働いている人もいます。作品を読んだ人が、コンビニで働く外国人の店員さんや、夜に働いている人を見かけた時に、もしかしたらこの人たちにも子どもがいて、預けて働いているのかも、と少しでも想像してもらえるようになったらいいなと思いました。知っている人が増えたからといって助けにはならないかもしれませんが、少しでも世間がマイルドになればいいですよね」

 そして、保育園で長い時間を過ごす子どもたちは、親が迎えに来るのをじっと待ち続けている。菰野さん自身、そのことは常々実感しており、本作でもそんな子どもたちの姿が描かれている。

「保育園に子どもを預け始めた頃は、楽しそうにしているからよかったと思ってたんです。子どもはまだ小さいから時計が読めなくて、外が明るいか暗いかで、私が早く迎えに来たかどうかを判断しているんです。ちょっと暗くなってから迎えに行くと、『今日はママ遅かったね』って文句言われるんです。逆に、いつもより遅く迎えに行ったのに、まだ外が明るいと『今日は早く来てくれたね』って。子どもってチョロいな、とくすっとする反面、お迎えの時間を気にしていることに対しては心がチクっとします」

 

どんな働き方でも受け入れられるように

 現状、24時間保育を行っているのは、認可外の保育園や民間の託児所が主で、認可保育園で行っている施設は限られている。認可か認可外か、という違いに関しても、認可は所得連動で保育料が決まるため、世帯収入が低い家庭にとっては助かるが、希望通りに入園できるとは限らず、申し込みのための手続きは煩雑になりがちだ。

 一方、多少費用はかかるものの、当日でも預けられるベビーホテルや、おむつや着替えなどの準備が不要な民営の施設に頼らざるを得ない、もしくは認可よりも手軽なので積極的に利用している、というケースだってあるだろう。

 本作でも、こうした夜間保育をとりまく現状に関する描写が随所にあり、サービスを利用する親たちは、迷いを抱えたまま選択を迫られている状況が伝わってくる。

「行政や民間のサポートが足りているかどうかはともかく、探せばいろいろありますし、増えてきたと思います。でも、その情報が届いていない人もいます。私は裁判所の書記官という仕事柄、お役所関係の書類を読んだり、記入したりするのは平気ですが、それが苦手な人も多いはず。必要としている人に、適切なサービスが行き届き、もっと簡単に利用できるようなシステムにならないか、ということは感じています」

 共働き世代の増加に伴い、「まだ幼い乳幼児をあずけて働くなんて子どもがかわいそう」という風潮は、以前よりは和らいでいるかもしれない。しかし、それが夜間になると、「夜に子どもをひとりぼっちにするなんてかわいそう」と感じる人はまだまだ多いのではないだろうか? 本作では、保育園に預けられた子どもたちは本当に“かわいそう”なのか? ということについても触れている。

「日本は人口減少や少子化で、構造的に女性も働かないと厳しくなってきているため、政府も働くことを推奨しています。もともと働きたかった女性にとっては、楽になってきているのかもしれません。でも、逆に働けという“圧”が苦しい人もいるのではないかと思っています。みんながみんな働きたいわけではなく、どんな働き方でも受け入れられるようになればいいのにと感じています」

 

子どもの目ってすごくキラキラしている

 本作は舞台となる「つづきの保育園」で、夜間保育の時間帯を中心に働き始めることになる保育士・文乃を中心に描かれている。24時間保育園が初めての文乃は、読み手と同じように夜間保育の実際を目の当たりにして驚き、戸惑い、時には間違いつつも、懸命に子育てする親と、親をひたむきに愛する子どもたちのために奮闘するようになる。

「文乃のキャラクターは書きながら彼女になっていった感じです。保育士さんや学校の先生って、“先生”という立場から私生活や悩んでいる部分が見えないことが多いのですが、きっと仕事や家族のことで悩みがあるんじゃないかなと思うんです」

 そんな文乃はある事情から夜に眠れなくなり、昼間の保育園で働けなくなったことがあり、ここで働き始めることになるのだが、彼女には1歳半で母を、小学3年で父を亡くすという過去があった。そして、彼女の未成年後見人として名乗りを上げたのが父の恋人・杏子。杏子は何かと文乃のことを気にかけてくれているが、血のつながった家族でもなく、他人でもないという微妙な関係性にある。

「私はデビュー作から家族について書いてきましたが、今回はそういうつもりで書き始めたわけではありませんでした。たまたま夜間保育園に興味を持ったのですが、さまざまな親子が出てくるので、結果的に家族について書くことになったんです。文乃については、私が微妙な距離感の人との折り合いをどうつけるか、ということに興味があったから、こういう話になりました」

 物語は、何組かの親子と文乃との間に起こったさまざまな出来事を経て、思いがけない方向へと進んでいく。その結末は、夜空に輝く小さな星のようであり、希望も感じられるものとなっている。

 

「子どもの目ってすごくキラキラしているんですよね。私もよく、子どもに『なんでそんなに目がキラキラしてるの?』って言っちゃうんですけど、『私の目はキラキラしてるのに、なんでママの目はキラキラしてないの?』と言われてしまったことがあります(笑)。さまざまな事情を抱えた親子がいるけど、子どもって本当にかわいいし、そのかわいらしさをいっぱい伝えたい! と思って子どもの描写にはこだわりました。ラストをどうするかはプロットの段階から決まっていたのですが、バチっとはまったと思います」

 仕事や育児、家庭のことに日々忙しい中、子どもが寝た後の限られた時間を使って、小説を書き続けている菰野さん。子ども執筆のどちらが大事かは比べようがないが、どちらも続けていきたいと願っている。

「数年子育てしてきて、自分を優先するのはどうなのか、と悩んだこともありましたが、自分の時間もちゃんと持つべきだ、という境地にたどり着きました。仕事も子育ても執筆も、というのは正直きついときもあります。それを直すためには、自分の機嫌をとっていかなきゃいけないことに気づけたからです。時には子どもに寂しい思いをさせてしまうかもしれないけど、夫と子どもと私というチーム全員がうまくいくようにできるといいなと思っています」