普通の家族、本当の親子とは? 『オルタナティブ・ファミリー』が語りかける親子にとって本当に大切なこと
記事:明石書店
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「子どもに幸せに健やかに育って欲しい」というのは、子どもを養育する人々の普遍的な願いではないだろうか。
しかし、「普通とは違う家に生まれ育つ子どもは可哀想・苦労する」というような言葉を、男女の既婚夫婦のもとに形成された家族以外の、いわば別の形の家族、オルタナティブ・ファミリーに向けられることは多いだろう。こうした思い込みが生まれるのはなぜだろうか。
筆者であるスーザン・ゴロンボク博士は、この思い込みからくる偏見によって監護権(子どもを養育する権利)を奪われたレズビアンの母親たちの訴えにより、レズビアンの母親たちとその子どもたちへのインタビュー調査に1970年代より取り組んできた、家族研究の第一人者の一人である。その後、精子提供・卵子・受精卵提供により形成された家族、選択的シングルマザー、トランスジェンダーである親を持つ家庭など、多様な家族を研究の対象に広げ、調査を継続する中で分かったのは、家族の形や親の性的指向・ジェンダーアイデンティティにかかわらず、親が子に対して愛情深くコミュニケーションをとる、ということが子のウェルビーイングにとって大切である、ということだ。
そして、父母を持たない「普通とは違う」家庭の子どもは可哀想と言われる原因を生み出しているのは、多様な家族が社会の中で存在しないものとされ、学校などでも触れられる機会がないことや、制度や法整備からの排除、親に対するヘイトなど、社会や地域などの外部に原因があることも分かっている。
本書の中では、精子・卵子・受精卵提供により形成された家族も含め、子どもが小さな頃から本人に出自をオープンに小さな頃から伝えることは、子どもが、成長にしたがい自身のアイデンティティを形成するうえで、好ましい影響を与えることが伝えられている。
こうしたゴロンボク博士の調査結果などの情報に基づき、英国では、子どもの出自を知る権利が保障されており、現在精子提供・卵子提供で生まれる子どもたちは一定の年齢に達した後、本人が希望すればドナーの身元を特定する情報を得ることができる。一方で、本邦においては2020年に生殖補助医療法が施行されたが、これは法的に婚姻する夫婦が卵子提供・精子提供を受けた場合の親について定めているものの、出自を知る権利やドナーの情報開示に関する詳細を定めるものではない。
しかし、2026年の2月に日本産科婦人科学会が、将来子どもがアイデンティティを包括的に知るために提供者に会うことも含め、子どもの出自を知る権利についても盛り込んだ、新しい提供精子を用いた人工授精・体外受精に関する見解・指針案を発表した。この流れを後押しするかのように、これを書いている2026年9月頭には、こども家庭庁の研究班による調査で、精子提供・卵子提供により生まれた子どもへの告知について、全国約400の生殖補助医療施設の96.5%が実施すべきだと回答したことが報道された。
このように、告知を支持する医療従事者も増える中、ますます精子提供・卵子提供を受けた場合の子どもへの出自の伝え方に関する日本語の資料が今後必要になるだろう。子どもへの告知に関する日本語文献は2026年現在において非常に少ないため、当事者の方々にとっても、医療従事者にとっても、この本が信頼できる文献になるのではないだろうか。
2026年2月に日本産科婦人科学会が発表した提供精子を用いた人工授精・体外受精に関する見解・指針案は、日本における生殖補助医療とオルタナティブ・ファミリーをめぐる、言わば最新のガイドラインである一方で、現時点では同性カップル、選択的シングルマザー、事実婚カップルは対象に含まれていない。
現在日本国内で行われている「結婚の自由をすべての人に」訴訟では、全国5つの地裁で6件の訴訟が起こされ、高裁の判決は6件中5件が「同性婚を認めていないことは違憲(あるいは違憲状態)」という判断を下している。この一連の訴訟の最高裁大法廷は、2026年度内には開かれると報じられている。
「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告の中には、1970年代の英国のレズビアンの母親達のように、すでに以前の結婚生活で子どもを持ち、ふたり母家庭を築く方々もいる。また、精子提供を受け、子どもを産み育てるレズビアンカップルや選択的シングルマザーも、日本国内にすでに存在している。このゴロンボク博士の研究は遠い欧米の話ではなく、日本国内においても、すでにかれらはここにいるのである。
新しい形の家族、オルタナティブ・ファミリーは伝統的な形の家庭を重んじる社会にとって脅威になり、そこに迎えられる子どもは可哀想という偏見、そしてオルタナティブ・ファミリーに対する社会的な批判や中傷は、いまだに日本社会の中で根強く残っている。そうした偏見や偏見から来る制度上の差別を打ち破る、愛を背骨に持つ、力強いナラティブとエビデンスが、本書の中には活き活きと描かれている。大切なのは家族の形ではないことが、きっと分かるはずだ。
序文
第1章 レズビアンの母親たち「未知の海域」
第2章 配偶子(精子・卵子)・胚(受精卵)提供により形成された家族「愛によって生み出されたもの」
第3章 精子・卵子・胚(受精卵)ドナーたち「家系図の空白」
第4章 代理出産者「おなかのおかあさん」
第5章 代理出産家庭「偶然生まれたわけじゃない」
第6章 ゲイの父親家庭「夢見た以上に素晴らしいこと」
第7章 選択的シングルマザー「違う形」
第8章 トランスジェンダーである親の家庭「同じ人が前より幸せになっただけ」
第9章 未来の家族「先駆者たち」
第10章 終わりに
日本語の書籍・絵本
参考文献
著者ゴロンボク博士による講演「精子提供・卵子提供により形成された家族にとって一番大切なこと」
『オルタナティブ・ファミリー さまざまな形の家族と、親子にとって本当に大切なこと』の出版を記念し、著者であるスーザン・ゴロンボク博士を迎え、精子提供・卵子提供により形成された家族にとって、子どもの幸福にもっとも大切なものは何か、出自を知る権利についてや、子どもへの伝え方などのお話を伺います。
お申し込みいただいた皆様には、事前にゴロンボク博士への質問をお寄せいただけますほか、当日リアルタイムでご参加いただけない場合も、アーカイブ視聴が可能となっております。書籍をまだご覧いただいていない皆様にもご試聴いただける内容となりますので、ぜひお気軽にお申し込みください。
日時:2026年9月23日(水・祝)日本時間20時より
形式:オンライン(Zoomを使用)
概要:スーザン・ゴロンボク博士による講演(60分程度・逐次通訳あり)および質疑応答(30分程度)
参加費:無料
お申込みはこちら→https://peatix.com/event/5156510