「俺ってストレス耐性が強い」と自任し、周囲からは「使い減りしない」とも言われていた。期待に応える猛烈な働きぶり。中日・東京新聞でベルリン特派員や政治部官邸キャップを歴任した記者。そのキャリアが、2012年、突然途切れた。
年明けから動悸(どうき)が収まらず、不眠が続いた。抑うつ状態と診断され、5カ月休職した。復帰後に政治部を去り、生活部に異動した。
本作では、過剰な働きぶりを強いて部下を追い込む「クラッシャー上司」の存在や長時間労働など、原因をさらけ出した。現実の人間関係にも絡むテーマだが、地雷原に踏み込む覚悟で書いた。病を得て「誰かがどこかで指摘しなくてはならない病巣。組織に波風立てないことよりも大切なことがあると信じるようになった」からだ。そして、今は誰も責めない。「政治部時代、私も部下をどなり上げた。振り返れば自分にもクラッシャー上司の面があったから」
復職後、入れ替わるように両親の介護がのしかかった。足の弱った父が特養に入居。認知症が進行した母は病院に移った。14年に実家近くでの勤務を希望し実現。週末名古屋市の自宅から故郷岐阜県の施設まで1時間かけて介護に赴く。その様子を、中日・東京新聞で連載し始めた。20回を超えた。「親のなれそめなどファミリーヒストリーを探り驚くことも多い。まさに介護民俗学。人への興味で介護にも前向きになれる」
昨年、パーキンソン病と診断された。三つめの「わけあり」だ。
今は介護に支障はないが、メモを取る手は震え、パソコンは右手の指一本。自立して自由に取材活動ができるのはあと10年と見積もる。結婚する前に、妻からもらったモンブランのボールペンを手に「最後の血の一滴まで、三浦は記者でありたい」という。
「わけあり人材」として、つらい人たちや、けなげに生きているのに報われない人たちに寄り添いたい。最近世話になった人へメールを出した。「読者を助ける知恵がある。暮らしの中で戦う勇気がある。そんな新聞を作りたい」とつづった。
(文・写真 木村尚貴)=朝日新聞2017年8月27日掲載
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