ガリーナ・シェフツォバさん「未来に残したいウクライナの木造教会」インタビュー 自然と共に暮らしていく

現在も続く、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻。破壊の危機に瀕(ひん)する、そんな母国の木造教会群を総覧した一冊を出版した。「専門書はウクライナでも何冊か出したのですが、一般向けは初めて。しかも日本の人を対象に書き下ろしたので、私にとって当たり前のことをどこまで説明するかで悩みました」
できたのは、手描きスケッチや自ら撮影した約130件の教会のカラー写真が掲載された入門書。「6千円くらいになるのではと思っていたので……。価格を抑えてくれた出版社に感謝しています」
国立芸術建築アカデミーの大学院を修了後、2003年に近畿大学の研究生として初来日。桜井敏雄氏のもとで日本の木造建築を学んだ。「博士論文は19世紀のウクライナ建築。でも日本に来て木造建造物の魅力を知り、ウクライナの木造教会の研究をするようになりました」
ウクライナでは現在約2千の木造教会が確認されているが、ガリーナさんによれば、これは「元々あったものの1割程度」。「ロシアによってウクライナ様式の教会の新築が禁じられたり、ソビエト連邦下で教会の破壊が行われたりしたことが大きい」と指摘する。
ウクライナではビザンチン帝国の影響で9~10世紀以降、石造建造物がたち始めるが、それまでは木造建築が基本だった。「ウクライナ人は自然と共に暮らす状態を好みます。教会も構造自体はまったく違うのに日本の神社建築などと似通った雰囲気がある。おそらく基層文化に通じるものがあるのでしょう」
ウクライナの木造教会は同国の西部・北部に比較的よく残る。「この地域は山岳地帯で、ソ連に組み込まれるのが遅かったので、教会が壊されずに残った。逆に現在、ロシアが侵攻を進めている東部は早くから教会の破壊が行われた結果、幸か不幸か、今回の戦争での木造教会の被害は少なくてすみました」
大津市在住ながら、2カ国を行き来し、キーウ国立建設建築大学教授として教鞭(きょうべん)をとる。「今は安全とは言えませんが、キーウは私の地元。普通に暮らしていきます」(文・写真 宮代栄一)=朝日新聞2025年6月14日掲載