マンガ家は多くの人があこがれる職業だ。しかし、成功するのはひと握り。売れっ子になっても「自由に描ける」とは限らない。
マンガ家を主人公にし、マンガを描くこと自体をテーマにした、いわゆる「マンガ家マンガ」の第1号は『漫画家残酷物語』(永島慎二)とされている。タイトル通り若手マンガ家たちの苦悩や挫折を描いた連作短編集だが、改めて読むとこの作品が半世紀以上も前の1961年に発表されたことに驚く。当時は「週刊少年サンデー」と「週刊少年マガジン」が創刊されたばかりで、まだマンガは“子どもが読むもの”だった。さいとう・たかをや辰巳ヨシヒロが若者も読めるマンガを目指して「劇画」をうたっていたが、ここまで純文学的なマンガは史上初めてだったのではないだろうか。
最近増えているマンガ家マンガの中でも、業界の“闇”の部分を赤裸々に描いて話題を呼んでいるのが「マンガonウェブ」「トーチweb」で連載中の問題作『Stand by me 描クえもん』だ。作者は『海猿』(原案・小森陽一)や『ブラックジャックによろしく』で知られる佐藤秀峰。タイトルは映画『STAND BY ME ドラえもん』の、主人公の満賀描男(まんがかくお)という名前は『まんが道』(藤子不二雄Ⓐ)の主人公・満賀道雄のパロディーになっているが、それらは軽いギャグに過ぎず、藤子コンビに対する悪意はない。
マンガ家を目指してアシスタントをしている青年・満賀描男の前に、「未来の自分」を名乗るハゲでデブの「おっさん」が現れる。マンガ家になることに反対するおっさんに従わず、描男は念願のプロに。編集部の企画で描いた『魚猿』は大ヒットするのだが、夢にまで見た売れっ子マンガ家の実態は恐るべきものだった。
新人を道具のように扱う編集部、原稿料だけでは赤字になるアシスタントの人件費、ストーリーに一切タッチしていないのに「原作者」を名乗ってメディアに顔を出す原案者・功盛(こうもり)、一方的に印税率を決めて出版後に送られてくる契約書……。フィクションといっても作者の実体験がベースになっていることは間違いなく、『魚猿』や「功盛」のモデルは誰の目にも明らかだろう。最近も「キンドルアンリミテッド」を巡ってアマゾンを提訴していたが、作家生命を危険にさらしながら業界や大手出版社の問題を糾弾し続ける佐藤秀峰は、まさにマンガ界の特攻野郎だ!=朝日新聞2017年7月19日掲載