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面倒なことは代行します  マネー誌「ダイヤモンドZAi」初の女性編集長に聞く

ーー雑誌のプロフィルをお聞かせください。

 1999年に株式の売買手数料が自由化され、価格が下がったことで、個人投資家が一気に増えました。折しもインターネットの普及でネット証券が登場し、個人もより株をやりやすくなった。そこに向けて2000年、「ダイヤモンドZAi」は創刊しました。「株歴30年」といったベテランから、難しいことはわからないけどおトクな情報がほしいというマネー初心者の方まで、幅広い層にお金のありとあらゆる情報をお届けする雑誌を目指し、毎号6~10の特集を組んでいます。
 創刊翌年の2001年には確定拠出年金が始まり、その後、企業の厚生年金基金が相次いで解散するなど、老後の年金が「自己責任」の時代になりつつあります。政府の動きからもそれは見て取れて、NISA(少額投資非課税制度)や積立NISA、iDeco(個人型確定拠出年金)といった制度をスタートさせている。今後、お金について知識がないとどんどん取り残されていくと言っても過言ではありません。「個人の老後のお金をどうするか」を切実に追求し、その答えを出していく。それが弊誌のミッションだと考えています。

ーーコンセプトは?

 モットーは「『面倒なこと』はすべて『ダイヤモンドZAi』が代行します」。たとえば株であれば、現在上場株式は3700近くあるのですが、今はインターネットがあるとはいえ、個人投資家がすべての銘柄を見るのは大変です。私たちは読者の皆さんの代わりに毎回、全銘柄をチェックし、そのときに一番いいと判断した株の情報を提供します。株主優待を実施している上場企業をすべて洗い出し、お得感、還元率、株価の将来性まで見据えてご提案します。投資信託の運用実績、証券会社の手数料、クレジットカードのポイント……と、お金に関することは読者に代わってすべて見て比較検討し、ズバッと答えを出す。それがコンセプトです。

ーー全銘柄、全株主優待のチェック……気が遠くなりそうです(笑)。マネー誌特有の手法なのですか?

 いえ、うち特有ですね(笑)。とはいえ特別な方法ではなく、とにかくすべて見て、すべて調べる。現在発売中の7月号の別冊付録「2018年株主総会ガイド」に株主総会でもらえるおみやげ一覧を掲載しているのですが、該当する1000社以上に1社1社電話して、「おみやげありますか?」とぶしつけな質問をしました(笑)。編集部員だけでは足りずOBまで借り出し、回答のあった239社のおみやげを写真付きで紹介しています。
 大量の情報を速く流すことではネットにはかなわないけれど、集めた情報を取捨選択したり、編集しておもしろく見せたりは、紙メディアだからこその強み。かつて4誌あったマネー誌が2誌になった中で生き残り、圧倒的なマネー誌シェアNo.1を保ち続けているのも、愚直なまでにこのやり方を貫いてきたからだと自負しています。読者のためなら手は緩めません。

ーーこれまでのヒット企画は?

 株主優待の特集です。各社の優待を一覧リストにし、写真もふんだんに使って「こんなに楽しいよ」と提案したのはうちの雑誌が走りなんです。テレビでも話題の桐谷広人さんがオススメするうちの株主優待企画も大人気で、私が担当していました。最近のヒットは、ふるさと納税。やはりこの企画でも全自治体の全返礼品をチェックして、おトクなものを約30ページにわたって大々的に紹介しています。
 ふるさと納税は検索できるウェブサイトもあります。「1万円 牛肉」と入力すれば、数千件はヒットするでしょう。そこから選ぶのはひと苦労です。その点、私たちはすべて見ていますから、「今、この時点で1万円で一番たくさん肉をもらえるのはコレ」と提案できる。情報収集だけでなく、取捨選択し、ベストを提示するところまでやる。キュレーションしているのです。
 現在進めているのが、寄付額1万円未満のふるさと納税。返礼品をもらえるのは1万円台が最も多いのですが、年収3~400万円のサラリーマンだと上限額はせいぜい2~4万円で、2、3個しか返礼品がもらえない。それではおもしろくないので、1万円未満に特化して探し色んな返礼品をゲットしよう、と。ネットで検索して調べられる人はいいのですが、めんどくさい、さっさとトクをしたいという人は、ぜひ弊誌を読んでください(笑)。

ーーお金周りで注目すべきトピックは?

 生命保険各社が売り出している「トンチン保険」です。変わったネーミングは、17世紀、イタリアの銀行家ロレンツォ・トンティが考案した「トンチン年金」に由来します。受取開始年齢までの解約返戻金を低く抑え、死亡時の保障をなくすことで、一生涯年金を受け取れる、という商品です。これまでの個人年金はせいぜい70歳、80歳までしか出なかったのが、トンチン保険は生きている限りもらい続けることができる。いわば長生きリスクに備える保険で、今、売れ始めています。人生100年時代、今後絶対にニーズがあると見ています。

ーー『ダイヤモンドZAi』初の女性編集長として話題です。

 お金に性差はないですし、女性編集長だから、というのは雑誌とは関係ないと思っています。ただ、歴代編集長に比べると、イラストや写真をたくさん使ったり、マンガでわかりやすく解説したりといったやわらかい誌面作りは得意かもしれません。株の銘柄紹介も、会社情報やデータだけでなく、メーカーならば作っている製品を写真付きで紹介したり、海外での需要の伸びをグラフなども使って解説したり。株に関係がない人でも、単に記事として読んでもおもしろいはずです。
 実は、多くのマネー誌が経済畑出身の記者が編集しているのに対し、うちは情報誌や女性誌などマネーとは関係のない編集部の出身者が多いのです。私自身も情報誌からの転職組。みんな雑多な興味関心があり、お金に対しても消費者と同じ目線を持っている。より「雑誌っぽく」作るのは、私をはじめ、うちの編集部がもっとも得意としているところなのです。

ーー今後の「野望」をお聞かせください。

 『ダイヤモンドZAi』は、発行部数18万部とマネー誌シェアNo.1を誇っています。ところが、外で読んでいる人を一度も見たことがないんです。街の中でも電車でもカフェでも。こんなに売れてるのに、なんで!?って(笑)。おそらく、お金のことって人の目につきたくない、恥ずかしい、という感情が日本人にはあるのでは、と。マネー誌を、うちの雑誌を、堂々と人前で読める世の中にするーー。それが野望です。
 冒頭でお話しした通り、これから老後の年金が自己責任の時代がやってくることは間違いありません。「iDeCoで何を選んだ?」とか、そういうことは当たり前に話せる社会になってほしい。特に若い人にもっとお金に興味を持ってもらえたら。50代、60代が「老後のお金どうしよう」と焦っていますが、早ければ早いほど楽に準備ができるから。「お金を使え」とは言いませんが、銀行に預けっぱなしじゃなく、投資信託を混ぜたほうがパフォーマンスも上がる。そのことを知ってもらいたいですね。
 若い人はなかなか雑誌を読んでくれないのですが、ネット媒体では得られない情報があると知ってほしい。私たちもあえてネットでは流していない情報がありますが、それは出し惜しみしているわけではなく、ネットに向かないと判断したから。紙メディアの良さをもっと知ってほしいし、知ってもらうために私たちもさらに、読者の方が「ほしい」と思える情報を、どこよりもズバッとお届けしていきます。
(構成・取材・撮影/中津海麻子)