「ローマ帝国の崩壊」書評 豊かな古代の「終焉」を実証
ISBN: 9784560083543
発売⽇: 2014/06/22
サイズ: 20cm/286,49p
ローマ帝国の崩壊——文明が終わるということ [著]ブライアン・ウォード=パーキンズ
近年の欧米の主流歴史学の表現では、ローマ帝国は「崩壊」したのではなく「変容」したということになる。この立場は「古代の教養は死に絶え、『暗黒時代』の軛(くびき)のなかに取り残された」という伝統的な見方を否定し、「200年ごろに始まり8世紀まで続く新しい時代としての『古代末期』を(略)活気に満ちた宗教的・文化的議論の時代として定義した」。
そうした「正統教義」に対して、ローマ生まれの考古学・歴史学者である著者は異を唱える。陶器、屋根瓦、貨幣など考古学的証拠から「5世紀から6世紀にかけて、帝国西方の生活水準が驚くほど衰退した」と結論づけている。例えば、鉛・銅・銀の精錬がローマ期の水準に戻ったのは、16~17世紀ごろになってからだと最近実証された。ローマの「崩壊」は、まさに「ひとつの文明の終焉(しゅうえん)」だったのである。
著者は「文明」を「複雑な社会とそれが生み出すもの」と定義する。古代ローマ文明は「自分が必要とする品物の多くを、ときには何百マイルも離れた場所で働く専門家(略)に依存する」複雑で洗練されたネットワークをつくりあげた。そのシステムは5世紀以降、ゴート族をはじめとする蛮族の相次ぐ侵入で「死」を迎えることとなる。
蛮族はローマの「高い生活水準を共有したい」と望んだ。だが、ローマが築いた古代経済は「複雑につながりあったシステム」であるがゆえに「その洗練が、システムの変化(蛮族の侵入)に対して脆弱(ぜいじゃく)で融通の利かないものにしていた」のだった。
近年の「変容」説はユーロに新たな一体感を醸成するための「物語」のようなのだが、著者によれば、500年にわたるパックス・ロマーナのもとでは、中間層や下層の人も豊かさを享受できた。格差を抱えた「テロの21世紀」と、高度な現代「文明」の隆盛は両立しないのである。
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南雲泰輔訳、白水社・3564円/Bryan Ward-Perkins ローマ生まれ。英オックスフォード大学フェロー。