尾張藩主徳川慶勝(よしかつ)ら4兄弟の視点から幕末を描いた『葵(あおい)の残葉』(文芸春秋)が第37回新田次郎文学賞に選ばれた。尾張徳川家の分家高須松平家の4兄弟だが、倒幕派と佐幕派に引き裂かれ、翻弄(ほんろう)される。
作者の奥山景布子(きょうこ)さんは名古屋在住。テレビ番組で偶然、慶勝のことを知った。自ら名古屋城を撮影するなど、「地元に多趣味でおもしろい殿様がいるな」と調べ始めたが、「こりゃえらいものに手を着けてしまったと思った」と笑う。
名古屋大大学院文学研究科博士課程を修了し、大学講師などを経て作家に。小説の視点となる人物(視点人物)から見た形で書くスタイルを貫いてきたのは、国文学の研究者だった経歴が影響しているかもしれない、という。「もともと女流日記の研究者。女性のひとり語りを研究してきたので、誰かの目から語るスタイルが染みついてしまっている」。だから、小説を書く際は視点人物を誰にするか考え抜くという。
落日の平家の女性、江戸時代の席亭……書いてきた時代もテーマも多彩だ。あまり知られていない人物や、有名な人物の知られざる一面がおもしろい。「これからもそうしたものを読んでいただけたら」(千葉恵理子)=朝日新聞2018年6月27日掲載
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