- 『私立探偵マニー・ムーン』 リチャード・デミング著 田口俊樹訳 新潮文庫 1320円
- 『三十棺桶(かんおけ)島』 モーリス・ルブラン著 中条省平訳 光文社古典新訳文庫 1980円
- 『魔女裁判の弁護人』 君野新汰著 宝島社文庫 900円
(1)は米国の職人的作家リチャード・デミングによる、活劇と謎解きの醍醐(だいご)味が詰まった私立探偵小説集だ。語り手のマニーことマンヴィル・ムーンは片足が義足の私立探偵。レンジャー部隊仕込みの格闘術と愛銃のワルサーP38を武器に、いかなる脅しにも屈せず戦う勇猛な男として悪党からも知られている。
タフなヒーローの魅力をたっぷり描きつつ、そこに論理的な謎解きの面白さも組み合わせているのが本作の大きな特徴だ。マニーが手掛かりを基にロジカルな推理を披露する姿は、まさに名探偵そのもの。
ミステリ小説のヒーローといえば(2)の新訳刊行も嬉(うれ)しい。怪盗キャラクターの元祖にして代名詞、アルセーヌ・ルパンが登場するシリーズの代表長編である。怪盗ルパンの物語といえば都会的で華やかな印象を抱く人も多いだろうが、本書は違う。
片手のない死体が登場する幕開けから、絶海の孤島を舞台に殺戮(さつりく)が繰り広げられるというシリーズの中で最も陰惨怪奇な冒険譚(たん)になっているのだ。舞台の雰囲気や趣向など日本の古典探偵小説の諸作に通ずる点があるのも興味深い。
(3)は第二十三回「このミステリーがすごい!」大賞・「隠し玉」作。十六世紀の神聖ローマ帝国で、魔女裁判にかけられた少女の無実を証明すべく奔走する法学者ローゼンの姿を描く。魔女の存在を信じる人々をどうやって説き伏せるのか、という過程を丹念に書いていく点が魅力的。物語設定ならではの捻(ひね)りを用意しているのも良い。=朝日新聞2025年7月12日掲載
