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想像し合えば、心の角がとれて丸くなる 森沢明夫さん「雨上がりの川」

森沢明夫さん=横関一浩撮影

 ヒューマンドラマの名手、森沢明夫さんが長編小説『雨上がりの川』(幻冬舎)を出した。壊れそうになった家族の再生というシビアなテーマにもかかわらず、心がほっこりする物語だ。

 出版社勤務の淳は、妻の杏子や中学生の娘春香と、平凡だが幸せな暮らしを送ってきた、はずだった。だが、春香がいじめに遭って引きこもり、杏子は娘を救いたいと願うあまり、霊能者に傾倒していく。不穏な空気に包まれるなか、そんな家族を救ったのは――。ミステリーの要素がちりばめられ、最後には幸福などんでん返しが待っている。

 語り手を何回も変えていく、3章立ての物語。「同じ風景でも、人によって見え方が違う。人間の多面性を表現したかった」

 背景を丁寧に描く。互いを思い合っているがゆえにウソをついたり、隠し事をしたりする様子から、いわば加害者的立場の霊能者の過去まで。他者への想像力の大切さを作品に込めた。「自分に嫌な思いをさせた相手にも事情があると想像できれば、許すことができるし、少し自分も救われると思うんです。想像し合えば、心の角がとれて丸くなる」。匿名での中傷が多いネット空間で、欠けているものだと感じている。

 アイデアは尽きず、構想は常に40はあるという。大学の時、年間3分の1をオートバイで全国の河川を巡る旅に費やした体験も源泉になっている。卒業後は出版社に勤め、編集者になったが「司令塔の役割で、実際に書くのはライター。自分の求める完成度に達するとは限らず、モヤモヤしていて」という実感から、作家への転身を決めた。

 小説を書き始めて10年余り。吉永小百合さん主演の映画「ふしぎな岬の物語」の原作など、心温まる作品を紡いできた。「読んだ後に、自分の人生がキラキラ明るく見えるものを、と思って書いている。置かれた環境の中に転がっている小さな幸せを見つけ、掘り下げることを大切にしています」(宮田裕介)=朝日新聞2018年11月28日掲載