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幕末を西部劇のテイストで 東山彰良さん、初の歴史時代小説「夜汐」

作家の東山彰良さん=福岡県久留米市、河合真人撮影

 作家の東山彰良(あきら)さんが、幕末を舞台にした『夜汐(よしお)』(KADOKAWA)を出した。デビュー15年、50歳の節目の時期に執筆したが、歴史時代小説は初めての挑戦。背中を押したのは、一昨年に亡くなった、ある先輩作家だった。

 時は文久3(1863)年、長州藩士が英国公使館を焼き打ちして間もないころ。やくざ者の蓮八は、幼なじみの八穂を苦界から救おうと、敵対する組織の賭場から大金を奪う。京都に逃れ、新選組に身を投じて隠れるが、八穂に再び会うため、組を抜けて江戸をめざす。沖田総司や土方歳三ら隊士たち、さらに組織の放ったすご腕の殺し屋「夜汐」に追われながら逃避行を続けるが……。

 「歴史時代小説を書いてみたい」。そう考えるようになったのは、『流』で直木賞を受賞した2015年ごろからという。

 現実と神秘が入り交じるラテンアメリカ文学のマジックリアリズムに魅せられ、そうした物語を紡いできた。これまでは未来のアメリカや少し昔の台湾などを舞台に選んできたが、「日本を舞台にするなら、現代の大都会では書きにくい。過去に時代を移せば、書けるかもしれない」と思い至った。

 夜汐には、望みをかなえる代わりに魂を求める「悪魔」を重ねた。出会う人によって、剣士にも異人にも狼(おおかみ)にも見える「正体不明、理解不能な存在の象徴」。逃れられない死の気配を漂わせ、作中ではこう語られる。
 〈あいつは……夜汐は宿命(さだめ)みてェなもんなんだよ〉
 〈その宿命ってのは戦とか尊王攘夷(じょうい)とか、そんな御大層(ごたいそう)なもんじゃねェ。もっとちっぽけで、俺らひとりひとりが抱えてるもんなんだ〉

 一方、新選組の資料を読んでいて注目したのが、池田屋事件などを経て京都にその名をとどろかせる前の時期。「この時期なら、隊士たちを比較的自由に動かし、創作した人物を一人くらい押し込めることができるのでは」。史実を踏まえながら、イマジネーションを働かせた。

故 葉室麟さんが後押し 時代の変わり目に魅力

 「西部劇のテイストが好き」というのも、幕末を選んだ理由だ。「刀から鉄砲へ、馬から蒸気機関へと、新旧の価値観がぶつかる時代の変わり目にひかれる。日本でそういう時代と言えば、幕末」。テキーラを思わせる「墨西哥(メキシコ)焼酎」を隊士たちが樽(たる)ごと飲み、羽目を外す場面も登場する。
 とはいえ、雑誌連載を始める際、「台湾出身の僕が日本の歴史時代小説を書いて、説得力があるだろうか」と悩んだ。そんな時に相談したのが、直木賞作家の先輩、葉室麟さんだった。『蜩(ひぐらし)ノ記』『大獄 西郷青嵐賦(せいらんふ)』といった歴史時代小説で知られるが、母校・西南学院大学の先輩でもある。福岡県内の同じ私鉄沿線に住み、親しく飲む間柄だった。

 葉室さんからは「東山さんの感覚、文体で幕末をとらえれば、東山さんの世界観の作品になる」と励まされた。「東山さんが書けば、日本の歴史時代小説が、アジア的な広がりを持つ可能性がある」とも。葉室さんが急逝したのは、その2カ月ほど後の17年12月のことだ。

 書き上がった作品は、アウトローが跋扈(ばっこ)し、誰もがギリギリの生を懸命に生きるロードノベル。「複雑な時代を背景に、でも、男がほれた女のために命を賭けるという単純な物語。歴史には残らない『普通の人』の運命を描いた」と東山さん。これまでの延長線上にある世界観の作品となった。「葉室さんの言葉通りでした」と振り返る。

 夜汐のキャラクターが気に入り、「異なる時代や場所に登場させてみたい」。早速、スピンオフの短編「いぬ」を、発売中の「小説野性時代」2月号(KADOKAWA)に発表した。こちらは幕末よりさかのぼる田沼意次の治世、百姓たちの打ち壊しに夜汐が絡むというストーリーだ。(佐々木亮)=朝日新聞2019年1月30日掲載