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極地探検家がなかなか行けない家族との海外旅行 「極夜行」が話題の作家・角幡唯介さん

文:尾島武子 写真:横関一浩

 極地の探検はどうしても長期間になりますから、寂しくて家族が恋しくなるわけですよ。「帰国をしたら絶対に家族と旅行に行こう」って心に誓うのですが、日本にいる間は執筆活動などに追われてしまい、なかなか行けないんです。

 家族そろって出かけた旅行といえば、3年前の沖縄旅行ぐらいかなあ。10日ほどでしたが、伊良部島のきれいな海で泳いだりシュノーケリングをしたり、本島では車を借りて名護周辺をぶらぶらと巡ってみたり。僕の親はスーパーを経営していて忙しくしていましたから、幼少期にどこか旅行に連れて行ってもらったという記憶がないんですよね。リラックスするための旅行っていうのは自分に家族ができてからだったので、すごく楽しかったですね。

新婚旅行はシルクロードと思ったが…

 うちの奥さんと「海外旅行に行きたいね」って話しはよくしているんですよ。例えば、テレビ番組の取材で行ったロシアのコーディネーターから「ウズベキスタンは、料理もおいしいし人も優しくて素晴らしい」みたいなことを絶賛されたので、新婚旅行はシルクロードがいいんじゃないかって。中国からウズベキスタンやタジキスタンなどの中央アジアを回ったら面白そうだし、どうせなら新疆のほうも行きたいなあとかね。ガイドブックを買って調べていましたが、子どもを授かったことで見送りになりました。

八ヶ岳天狗岳で家族登山。途中の高見石小屋で(2018年8月、角幡さん提供)

 2015年には「極夜行」を執筆する準備段階で、グリーンランドの一番北にあるシオラパルクという村に7カ月ぐらい滞在していました。ほんとうは1年ぐらい滞在する予定でしたが、そのときはまだ子どもが1歳ちょっと。普通に考えたら、乳飲み子を置いて夫が1年以上家を空けるなんて、家庭が崩壊しちゃいますよね。だから家族も一緒に連れて行こうと考えました。自分の活動に組み込んじゃう、みたいなね。

 子どもは2歳になっていなかったので飛行機の運賃は割引になるし、北極といっても夏の時期なら皆さんが想像するほど寒くない。涼しいぐらいですよ。グリーンランドは、福祉国家デンマークの自治領ですから、医療費はただ。たとえ病気になったとしても、隣町に行けば医療設備の整った病院があるし、ドイツ人医師がちゃんと診てくれる。隣町の病院へはヘリで搬送してもらえたりもするんです。住まいだって、きれいな建物とはいえないけれど、家族3人が暮らせるぐらいの家を借りる予定だったんです。魚だって網で捕れるし、アッパリアスという水鳥は塩ゆでにしても干し肉にしてもおいしいし、食うには困らんぞ、一緒に住んだら楽しいよって説得したんですけどね。断られてしまいました。

家族3人でアラスカのユーコン川を下りたい

 最近では子どもも5歳になって、ある程度体力がついてきたので、小学校にあがったころにでも行けたらいいなあと考えているのがアラスカ。3人乗りのカヤックを買って、うちの奥さんと子どもと3人で、ユーコン川を下りたいんです。こぐのは僕1人でもできますからね。でも2人からは「いやだ」と断られているんですけどね。

 アフリカで実物のゴリラを見せてあげたいとか、フラミンゴの大群を見せてあげたいとか。何より子どもの心に残るようなことをしてあげたいと思います。

 僕自身、特に30代のころは探検に付随する人との「出会い」みたいなものに楽しさを感じていました。いわゆる観光スポットではなく、人間臭いところで、その土地のおいしいものを食べたいっていう思いが強いかな。旅のプランを自ら考えて、「行きたいところに行く」みたいなことが理想ですよね。

 今年はインドネシアのパプア州というところに1カ月ぐらい遠征に行こうと思っているのですが、その前に家族旅行を兼ねてバリ島でしばらく過ごそうか、ということを奥さんに打診しています。でもまたポシャるような気がするんだよなあ。これを逃すとしばらく先延ばしになってしまいそうなので、なんとか実現させたいんですけどね。

5年かけて、シオラパルクを犬ぞり旅

 できることなら、ゆっくり時間をとって1年ぐらい活動を休止すれば執筆に充てる時間も確保できるし、それこそ家族と海外旅行もできる。そうすべきなんだろうと思うんですけどね。ただ43歳になって、今やっているような活動があと何年できるだろうと考えると、ワンシーズンを無駄にしてしまうのがもったいないと思ってしまう。今までの経験があって、「今の俺ならこれもできる、あれもできる」みたいな感覚はあるのですが、若いころと比べて気力や勢いみたいなものは落ちてきていると感じます。「できるけど、大変だな」みたいな。多分1年休んでしまうと、気持ちの切り替えが難しくなるんじゃないかっていう怖さがあるんですよね。

グリーンランド北部の旅の途中で越えた、北緯80度15分近辺のひどい乱氷帯(2018年5月、角幡さん提供)

 今年から5年ぐらいは、犬ぞりでシオラパルクを旅してみようと計画しています。それは従来のようにスタート地点から目的地までを効率的に目指すのではなく、狩りを前提に旅をすすめていくってことなんです。例えるなら原始人がやっていたようなことをやってみようと。今までなら通過していた土地にふらふらと立ち寄って、その土地の潜在力みたいなものを探って生かしながら旅をする。そうやって自分の活動できる領域を広げていくと、自分のできることもどんどん膨らんでいく。自分の行動を変えることで新たな「未知」が見えてくるんじゃないかなあって。犬の調教も含めて、今の俺だったらできるんじゃないかなあって気がするんですよね。