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「様々な声、覚悟している」 北条裕子さん、「美しい顔」改稿重ね刊行

北条裕子さん

 群像新人文学賞を受け、昨夏の芥川賞候補にもなった、北条裕子さん(33)のデビュー作『美しい顔』が講談社から刊行された。東日本大震災の被災地を舞台に、避難所で生活する女子高校生の視点で描いた短編。発表後に複数のノンフィクション作品との類似を指摘され、改稿を重ねた。「様々な声があることを覚悟している」と言う。
 巻末に「参考文献未掲載とその文献の扱い方という二点において配慮が足りず、多くの方々に不快な思いをさせてしまいました」という異例のおわび文を載せた。「自分が思った以上にたくさんの人に迷惑をかけてしまった。本にならなくても当然だと思っていました」
 主人公は年の離れた弟と避難所に逃れた。母の行方はわからない。体育館にはメディアがひっきりなしに来る。カメラのまなざしは暴力的であり、同時に非日常をもたらす快楽でもある。憤りと高揚、不安と絶望、ない交ぜにした感情をぶつけるように吐き出す。
 被災地は訪れていない。現地を映すテレビを見ながら抱いた違和感を一気に書きつけたという。「この小説がもう一度、被災者の方たちの傷をえぐるような体験をさせてしまうかもしれないと考え、躊躇(ちゅうちょ)と恐ろしさがあったが、こう書かざるを得なかった」
 安置所に並ぶ遺体を「ミノ虫みたいに」とする比喩など、参考資料と重なる表現は削除した。「知りもしない自分が実際の災害を描くとき、客観的事実から離れすぎてはいけないと思っていたが、未熟でした。著者、編者、取材対象者の存在なくしては書けなかった。最初から敬意を示すことができていたら。私の過失です」
 被災者の一人称で書くことは「自分でも驚くほど自然でした」。主人公は取材者の求めるまま、「喜んで大粒の涙をじゃらじゃらと落としてあげる」姿をカメラに見せる。「私も相手が望むようにふるまってしまうことがある。それで自分が楽になろうとする。主人公と少し重なります」
 子どもの頃から、自分の思いを発露するのは苦手だった。「自分が思うより、物語の中の主人公の方が自由に表現ができると感じます」(中村真理子)=朝日新聞2019年5月8日掲載