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安堂ミキオ「はたらくすすむ」 真面目な定年男、風俗店のボーイに

 定年退職後、家族からは疎まれ友人もおらず寂しいと嘆く66歳男性の人生相談に、劇作家の鴻上尚史氏は「自分の価値観を押しつけない」「趣味のサークルなどで対等な人間関係を学べ」とアドバイスしていた。その相談者にぜひおすすめしたいのが本作だ。
 主人公は同じく66歳男性。定年退職後、妻を突然の病で亡くし、悄然(しょうぜん)たる日々を過ごしている。その姿を同居の娘に鬱陶(うっとう)しがられ、このままではいかんと清掃のアルバイトに応募したつもりが、風俗店のボーイの仕事だったから、さあ大変。仕事一筋の真面目人間だった彼には、そこで働く女の子も店に来る客も理解しがたい。しかし、身近に接するうちに、彼女らにも客にもそれぞれの人生があり、自分の価値観だけでは計れない世界があることを知る。
 そこから彼は自らの生き方を反省したりするのだが、一方で会社員時代のスキルを風俗店の仕事に活(い)かす場面はカッコいい。実直な性格から女の子たちにも慕われる彼の思考と行動、未知の環境への適応力は、中高年のみならず全男性の参考になるだろう。
 明快な絵柄と軽快なセリフ回しで読みやすい。女の子たちの描き分けもうまい。ちなみに作者は女性である。=朝日新聞2019年5月18日掲載